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皇太子の妻になる人
セリーナがティアローズと過ごしている間も、皇宮はデルフィナを迎え入れる準備に慌ただしかった。
白の侍女たちはデルフィナの居室に新鮮な花々を生け直したり、彼女の到着より先に次々と届けられる着衣の数々や日用品などを運び入れ、在るべき場所に整えてゆく。
セリーナがティアローズの部屋に昼食後のティーセットを運んでいる最中、にわかに回廊が騒がしさに包まれ、大勢の人間が移動する気配がした。
セリーナは立ち尽くす––––。
国務大臣が先導するその一行は、侍従長をはじめ皇宮の重鎮が続き、更に数名の白の侍女を伴う––––回廊を渡り征くデルフィナの姿を、視線の先に認めたからだ。
(あの方が……)
離れているのでぼんやりとしか姿は見えないが、薄桃色のドレスに身を包んだデルフィナの落ち着いた物腰や優雅な身のこなしが、歩く姿からさえも見て取れる。
(生まれながらのお姫様……なんですね)
帝国皇太子の妻となるのに相応しい、深窓の姫君だ––––……。
セリーナの心が叫ぶ。
途方もない劣等感と、胸の痛みとともに。
*
侍従長から白の侍女全員に手渡された職務表を丁寧に確認する。いよいよセリーナも、このデルフィナと接する時が来たのだ。
「お一人だけでしたね」
デルフィナの居室『華蝶の間』に向かいながら、白の侍女エリアーナが呟いた。
皇太子妃の候補者は通常二人以上用意される。なのに一人きりとは随分と的を絞り込んだものだ——…
たった一人のデルフィナは、必然的に皇太子の婚約者となるのだから。
エルティーナ・アイリスリン・フォーン王女殿下、十八歳。
帝国に隣接するフォーン王国の第三王女で、豊かで広大な領土を有するこの国と国境が繋がれば、豊富な作物や希少な物資などの流通がスムーズになり帝国にとっては有益でしかない。
ただ第一、第二王女を指し於いて第三王女とは。
一大帝国が選ぶデルフィナにしては格下だ。それとも何らかの事情でもあるのだろうか。
「第三王女にしてカイル殿下のデルフィナに選ばれるなんて幸運だわね。帝国がフォーン国家を取り込むことを求めてないって事かしら……?」
国同士の事情などセリーナにはよくわからない。
どんな形であれ、フォーン王国の王女エルティーナが皇太子カイルの婚約者になる事に違いはないのだから。
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