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Prologue———*
見目麗しい青年——カイルが寝台の上であぐらをかいている。
真っ白なシーツの上で綺麗に折りたたまれた二本の長い足が、まるで彫刻のようにしなやかな曲線を描いていた。
「おいで」
低いがよく通るこの美声の主は、膝と膝のあいだを長い指先でトントンと叩いて見せる。
———キラースマイルで呼ばないでっ。それに、あのトントンは、何? まっ、まさか、お膝のあいだに座れと……?!
初めて会ったあの日。
温室の噴水で、カイルが同じ仕草をした時のことを今でもよく覚えている。
——隣に座っただけでも緊張したのに。お膝のあいだに座るなんてハードルが高すぎます……っ
セリーナがなかなか応じないので、寝台の上の美しい皇太子はアイスブルーの瞳に悪戯な笑みを滲ませながら両腕を大きく広げてみせる。
「ほら、寝台の上で遠慮は無用だ。おいで?」
——ま、まじでやばいです。心が……無心の心が、役に立ちません……っっ
「あの……後ろ向き……それとも向かい合わせ、に?」
「なんでもいいから、早く来い」
床に張り付いてしまった足を無理やりに引きはがす。
重い足をどうにか動かして進み、片膝を浮かせて寝台に上がれば、セリーナの全体重を受けとめたマットレスがぎしりと不穏な音を立てた。
天蓋付きの巨大なベッドの真ん中であぐらをかいていたはずのカイルの腕が伸びてくる。
あっ、と声をあげる間もなく——セリーナのか細い身体は逞しい腕の中に抱き寄せられ、気付けば美貌の皇太子のあたたかな胸の中にすっぽりとおさまっていた。
体制を整え、向かい合わせになってカイルの膝と膝のあいだに座ると、カイルの手のひらがセリーナの腰元に回される。
そのままぐいっと腰を引かれれば、互いの胸と胸とが密着しそうなほどに接近した。
——距離が……きれいなお顔が、近いっっ。 向かい合わせはだめっ、背中合わせの方がまだマシだった……
ふん、と息をついたカイルの蒼い瞳は熱を孕み、遠慮がちに見上げたセリーナの瞳をとらえて離さない。口元に浮かべた悪戯な微笑みはそのままだ。
吐息がかかるほどに近づいた顔と顔との距離感には戸惑うばかりで、目のやり場にも困ってしまう。
そんななかで紡がれた皇太子の艶のある低い声。言の葉は強引だけれど、声色はとても優しい。
「今度はきちんと断っておく……もう殴られるわけにはいかないからな。今夜こそ、私はお前を抱く。抵抗は許さない」
——どうしよう!?
鼓動がはがねのように胸を叩く。
——拒否してしまえば今度こそクビになるかも知れません……。三度目の正直で、さすがにもう《失敗》はできませんっっ。
諭すような言葉と凛々しい腕に囲まれて、完全に逃げ場を失ってしまったセリーナはさすがに覚悟を決めたのか、うつむいたまま消え入りそうな声で応じる。
「………はい。仰せのままに」
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