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「もうすぐじゃないですか、結婚」
「結婚はまだだ!」
「デルフィナが来れば、すぐですよ……そしてパパになるのも!」
「まだパパになるつもりはない」
——そう言えば、
と、ロイスが呟くように言う。
「エルティーナ・アイリスリン・フォーン」
「……ン?」
「フォーン王国の第三王女。いつ来るんでしょうね」
「誰だそれは」
「———えええっっっ!?」
ロイスの大声に、走り回っていた子供達が驚いて立ち止まる。
「自分のデルフィナの名前も知らなかったんですか?!」
「興味が無いからな」
あはは!!殿下らしい——と、ロイスは腹を抱える。
「我らの中では既に周知ですよ?!アドルフが伝えてなかったのかな」
「奴は不在にしてたしな……」
カイルはおもむろに立ち上がって歩き出す。広場の向こう側の、とある店が目に留まったからだ。
「ん、買い物?!節制の殿下が珍しい」
その店のショーウィンドウに並ぶものをカイルはじっと見つめる。
「んんん?!」
ロイスの素振りは、まるでおかしな物でも見るようだ。
「……エルティーナ姫に、ですか?」
「お前はここで待っていろ」
店に入ったカイルは、店主に何やら色々と聞き入っているようだ。
そして数分後。
店から出てきたカイルの手には、小さな袋が垂げられていた。
「ふ〜〜〜ん」
「その顔は何だ」
「興味が無いとか言っといて、本当はちゃんと考えてるんだ!」
「お前の想像はいつでも間違ってる」
「でもそれって、あれですよね……?」
二人が歩き出したその時だった。
きゃああああっ………
誰かっ!!お嬢様を、助けて!!!
騒然となる広場。
カイルとロイスの呼吸が瞬時に一体となる。
今、何をするべきか、言葉を交わさなくとも互いにわかっている。
「……行こう」
小さな袋をローブにしまい、代わりに腰元の長剣を握りなおしたカイルが呟いた。
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