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「大切な……大切な、お嬢様を助けていただいて……本当に……!なんとお礼を申し上げれば良いのか……」
三十代そこそこだが品のあるメイドはひたすら泣き続けている。少女はその風貌といい、きっと位を持つ名家の令嬢なのだろう。
程なくロイスが戻り、治安部の役人数名が伸びた男たちを叩き起こして連行した。治安部隊員の登場で周囲は一時騒然としたものの、ようやく事態が落ち着いたところだ。
「……あのっ」
ようやく気持ちが落ち着いたのか、それまで無言を貫いていた少女が突然声を上げたので、カイルをはじめ皆が一斉に視線を向けた。
「あの……。助けていただいて……有難うございます」
まだ幼さの残る声、豊かな金髪に華奢な花の髪飾りを付け、清楚だが質の良いドレスに身を包んだ彼女が立ち上がって礼をする。
ドレスのスカートを両手で広げ、頭を低くするその所作はとても優雅で——。
「お、お嬢様は、ご立派なお方様とご婚約を控えておられるのです。なので……お輿入れまでに何かあれば……取り返しのつかない事にっ」
「そんな大事な時に、護衛も付けずに外出ですか?」
「帝都は治安が良いと聞きましたし……。それに色々と事情がございまして」
(治安が良いと言われながらあの騒ぎ!……耳が痛い)
カイルが項垂れていると、
「私がメイドに無理を言ったのです。オフィーリア、あなたが謝る事はないのよ?全て私が悪いの……ワガママを言ったのは、私だから……!」
さめざめと泣き出す少女を見遣り、眉間を寄せてカイルにヒソヒソと耳打ちをするロイス——、
「……何だかややこしいのを助けちゃいましたね」
大通りに待たせてあるという彼女の馬車まで付き添う道中、彼女とメイドが語る身の上ばなし。
聞けば、たいそう憐れみ深い境遇ではないか。
どうやら彼女の輿入れの相手は——例えようのないほど、酷い男のようだ。
「嫌がるお嬢様に無理やりお輿入れを望まれて……!下級のお家柄なので有無を言わさず……」
「へええ〜。確かにそれじゃあ逃げたくもなりますね?」
「逃げる事など出来ません!そんな事をすれば一族は皆殺しです」
「へ!?もはや非道を通り越してるじゃないですか!卑劣な奴!!いったいどこの誰です?」
「なので少しでもお嬢様の不安が和らげばと、今日は嫁ぎ先の帝都の様子を見に……」
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