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ややこしいとか言いながら、彼女の身の上話に熱心に聞き入るロイスには、呆れを通り越してある意味敬意さえ覚える。
「女癖が悪く、独身なのを良い事に大勢の女性を囲っておられるとか……」
「酷すぎる!」
「激昂すればすぐに人をも殺める。冷徹無比で有名な方で……表情が無く、氷のように冷たい心の持ち主だと……」
「ん——、?!なんか、どこかで聞いたような、聞かないよう、な」
ロイスがチラリとカイルを見遣る。
「ン、何だ?」
そうこうしている間に大通りに差し掛かる。彼女の馬車は広場からほど近い場所に控えていた。
——それでは、ここで。
「わたくしたちは事情があって名乗る事は出来ませんが、せめてあなた方のお名前をお聞かせいただけませんか?帝国治安部の方々なら、機会があれば是非お礼を——」
カイルの目に、馬車に刻印された家紋が目に入る。
「ロイス」
促されて馬車を見遣るロイスも、何かに気付いた様子で——。二人は互いに顔を見合わせた。
ロイスが目配せをする、名乗りますか?
僅かに左右に首を振るカイル。
「……我等、礼には及びません。治安部隊員とあらば民衆を護るのは当然の使命。お帰りの道中はお気を付けて」
ごきげんよう!
ローブを羽織った二人の男に、馬車の中から嫋やかに手を振る令嬢の煌めく笑顔。
突如として明らかになった事実を前に唖然としながら、豪奢なその馬車の背を見送る。
「あ——、殿下?」
「何だ」
「相当ヒドい言われようでしたが」
「事実だから仕方がない」
「殿下の、妻になる人ですよ?!どこかで誤解を解かないと……」
「誤解じゃない、ほぼ事実だ」
馬車に印された家紋は——
紛れもなくカイルのデルフィナの迎え入れ先、フォーン王家のものだった。
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