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それはもぞもぞと泥の中に穴を作り、小さく丸まった。
見る間に内側から光が沸き立つように輝き出し——それは生まれた。
空にくすぶる閃光・轟音と激しい雨の中で、美しい蝶が羽を広げる——気高く堂々と、豪雨と稲妻を恐れる事もなく。
どんなに過酷な環境の中でも、気高く強くあれ。
まるでそう言われているような気がした。
俺は温室という環境を利用して、彼らを育て始めた。
人々から畏れられ忌み嫌っていた自分の能力によって蝶が生まれるあの場所に、心の拠り所を求めるように——。
誰にも見せた事が無かったものを、セリーナには見せたいと思った。
彼女もまた自分と同じで、フレイアという蝶に魅了されているようだったから。
(……それなのに)
喜ばせるつもりが、逆に泣かせてしまった。
彼女の涙の意味はわからない。
良かれと思っての行動が、逆に泣かせてしまうなんて。
冗談のような間抜けさでもいい、彼女には、笑っていて欲しい。
デルフィナを迎えたら——……彼女をまた泣かせてしまうのだろうか?
結婚を拒む事は出来ない。
そしてセリーナは永遠に宮廷に……俺のそばに居るわけではない。
柔らかな羽根が降り積もるように、こうしている間にも愛しさは募って行くというのに。
フォーンの王女は泣いていた。
俺との結婚を嫌がって。
この結婚に意味があるとすれば帝国の勢力の維持と拡大だ。人の心を踏みつけにして築き上げた勢力の上に喜びなんてあるのだろうか。
だが——…
無機質にペンが転がる音、血飛沫と人の肉が焦げるあの厭な匂い。
顔を覆っていた手を額に動かし、乱暴に髪を掻き上げる。
「光を求めれば、奈落に堕ちる……か」
———俺はいったい、どうすればいい?
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