逢瀬(⭐︎)

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逢瀬(⭐︎)

「……もう、平気ですよ?」 カイルがまた抱きしめてくるので、セリーナは何度も赤面してしまう。 「だめです……私、また……」 「熱ったらキスしてやる。何度でも、だ」 デルフィナが来るまでの時間を惜しむように、カイルは毎夜の如くにセリーナを「指名」してきた。 互いにキスに慣れはじめてからは、以前のような抱き方はされなくなった。 ()()を犯さないよう、カイルは意識的に己を牽制しているように見えた。   その代わりキスを重ねて触れ合ったあと、愛おしむような優しい腕に抱きしめられる。セリーナの髪に鼻を埋めながら、僅かな時間の中でカイルは堕ちるように眠りに就いた。 それを見届けたあと、セリーナはこっそり彼の腕を抜け出すのだ。 「そう言えば」 脱いだ礼服を手渡しながら、 「能力を持たずに、どうやって湯を沸かし直していたんだ?」 セリーナは心ばかり頬を紅くしてうつむく。 「時間が経つと、どうしても冷めてしまうので……パントリーから熱湯を運んで、何度か足しています」 「あんな所まで行き来してたのか?」 「……はい」 恥じらい混じりのセリーナの笑顔。 カイルは言葉を失った。 「皇太子様には、あったかい湯船につかっていただきたいですから……そのためなら、苦ではありません」 いとおしさが込み上げてきて、思わずまた抱きしめてしまう。 「何も知らずにすまなかったな……」 いきなり抱え上げられて、あ、と声をあげる。 カイルはセリーナを抱えたまま湯殿に向かった。 「な、何を……?!」 「もう湯を足さなくてもいい。足し湯くらい自分でできる」 広々とした湯殿の中。天井も高いので声が響く。 「一緒に入ろう」 「ぇ……!?」 カイルは湯船のそばにセリーナを立たせると、惚ける彼女の胸元のボタンに手をかけた。 * チャポン……。 カイルの寝所に付属する湯殿。窓際に設けられた湯船は大きく、二人で入っても窮屈さを感じさせない。   後ろを向いて膝のあいだに座るセリーナの背中を、カイルは後ろから両腕でゆったりと包みこむ。セリーナの後頭部にぽわんと結えられた髪に唇を付けると、甘い香りがした。 「あの、皇太子、様……」 後ろ向きなので顔は見えないが、華奢で幅のない肩が僅かに震えているのがわかる。 「私は男の人と、こんなふうにすること、初めてで」 「慣れていられても困るッ」 「今、すごく緊張、しています……」 初めて彼女に触れたあの夜、岩のように堅まっていた身体が今はどうだ。 女性らしい柔らかさでカイルを受け入れ、時々堪えきれないと訴えるように小さな声を漏らす。その声が聴きたくて、慣れている筈のカイルが必死になってしまうのだ。 「こっちを向いて?」 セリーナはうつむいて緊張を解こうとするように、ふ……と息を吐き、カイルの方に身体を向けた。 耳まで赤くなり、細い両腕を組んで胸元を隠そうとするその恥じらいの様子が愛らしく、気持ちを掻き立てられる。  チャポン……。 カイルは手を伸ばして、セリーナの結えられた髪をほどいた。真っ直ぐなシルバーブロンドの長い髪がはらはらと湯の中に——彼女の額に、華奢な白い肩に堕ちてゆく。 驚いてカイルを見上げるセリーナの、潤んだようなエメラルド色の瞳。 「皇太子、様っ!?」 艶やかな紅い唇が言葉を発する。 湯が熱いからなのか、それとも恥じらいからか——白い肌を薄紅色に上気させて。 「……お前は綺麗だな」 見たことのないくらいに優しい光を湛えた青い瞳が、セリーナを真っ直ぐに見下ろしている。 「そんなっ、私な……ん、て……」 その言葉が終わらないうちに唇をふさがれた。長い口づけに、熱くなった身体が湯の中で辛くなる。 カイルは湯船から彼女の身体を抱え出し、そのまま湯殿の床に組み敷いた。 大理石の冷たさが、背中と足裏に伝わる。 「こ……こんな、所で……?!」 「構わない、ここで抱く」
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