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決意
天まで澄み渡る青い空、清々しい朝だった。
ひどく緊張感の漂う『慶仁の間』に集められた二十名の白の侍女たちは騒ぐ事もなく、これから言い渡されるであろう事を既に理解している——皇太子妃候補を意味するデルフィナの到着——今日はその時だ。
宮廷に来た日、ひと目で面接官から「否」と判定されたセリーナ・ダルキア。
今となれば美しさを競うような白の侍女達の中でも全く引けを取らず、寧ろ皇太子の寵愛を受けて色艶を増した彼女は際立った美貌を見せている。
侍従長はそんなセリーナをチラリと見遣り、窺い知れぬ表情をした。
皇太子に宵の侍女を振り分けてきた彼だけは知っている——皇太子が、連夜の如く彼女を「指名」する事を。
恰幅の良いその風貌と堂々たる眼差しで侍女たちを威圧しながら、侍従長は低い声色で言葉を放った。
「皇太子殿下のデルフィナの到着は昼頃の予定だ。皆でその準備を進めて来たと思うが、改めて伝えておく。今日よりそなた達の業務の一部を抹消し、代わりにデルフィナの身の回りの世話を加える。デルフィナの居室は『華蝶の間』、『獅子の間』の隣である。この意味を理解し、行動するに於いては皇太子殿下とデルフィナへの配慮に努める事。職務内容の配分については後ほど書面にて伝達する。以上だ」
親友のアリシア・レイセル・フォン・デマレが心配を湛えた目で囁く——、
「セリーナ……。気持ちは、平気?」
——平気なはずがない。
だがしかし、デルフィナの存在を聞かされてからずっと今日まで、毒を飲むような想いで覚悟を重ねて来たのだ。
『慶仁の間』を退室の際に侍従長に呼び止められ、静かに耳打ちを受けた。
「……わかっているな?」
その一言が今にも押し潰されそうな胸の重みに追い討ちをかけ、「はい」と応える声は弱々しく縮んでいた。
(大丈夫……、きっと、……)
——務め上げてみせる、カイル殿下の最後の白の侍女としての職務を。
裂かれるような胸の痛みに耐えながら、セリーナは人知れず決意を固める。
瞳を向けたその薬指には——…
ひと粒の煌めきが密やかに輝いていた。
*
背筋を正し、回廊を渡る。
デルフィナの身の回りの世話という新たな業務が加わるものの、近頃セリーナの仕事の中心は、十歳になったばかりの第二皇女の世話係だ。
「ティアローズ様っ」
軽く三度ノックをして部屋に入ると——広々とした部屋の中はしんと静まり、物音ひとつしない。
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