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似ている
「申し訳ありませんでした……!私、殿下にとんでもない失礼をっ」
二人きりになった執務室のバルコニーで、エルティーナがカイルに深々と頭をさげている。
「いや、——」
「本当にごめんなさいっ……」
「もう顔を上げてください、何も気にしてませんから」
本当に……?
と、カイルを見上げるエルティーナの青い瞳は素直に澄んでいて、目の前の男への媚びやへつらいの影は微塵も見当たらない。
「良かった……。粗相をすればどんな目に遭わされるかわからないって、聞いていたものですから……って、あっ!?」
慌てて両手で口元を押さえる。
言葉を誤った、ウッカリ気を抜いて、余計な事を言ってしまったという焦りと戸惑い。とてもわかり易く慌てる王女の表情に、カイルの頬が緩む。
「わたしを畏れていると、隠しても顔に書いてありますよ」
「えっ……」
両手で押さえたその頬が赤くなっている。
——似ている。
カイルの胸に、一抹の思いが湧き上がる。
「殿下に……正直に申し上げます。私、あなたの事を恐怖の権化だと思い、宮廷に来ました」
「恐怖の権化?!」
(何だそれは……)
「す、すみませんっ。でも、全然違っていました。本当に怖いのは人の噂だと……殿下にお会いして、よくわかりました」
(この一瞬で、俺の何がわかったと言うのだ……)
エルティーナはさっきまでの陰鬱な顔が嘘のように、キラキラ輝く笑顔を見せている。
皇太子の印象が思い描いていた恐ろしいものと違っていた事に、心からの安堵を示しているのだ。
「ここに来る前に、支度のお世話をしてくださった人に言われたんです。カイル殿下はとても素敵な方だから、何も心配しなくていい……少しお話をすればわかるって。あの侍女さんの言葉は、本当でした」
(誰だ、余計な事を言ったのは……)
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