序. 或る研究室にて

1/2
前へ
/44ページ
次へ

序. 或る研究室にて

 今日も子供たちは死んでいく。  少年にとって、何度も見慣れた光景だった。  かと言って、抗う気力などなかった。自分もそうだが、この施設にいる子供たちは元々孤児や捨て子で、帰る場所もないのだ。非力でしかない自分たちが抗ったところで、何が出来ようか。  出来るとしたら、ただ1つ。  「ぎゃああああああああッ!」  実験を受け死を待つか、人間をやめるか。そのいずれかしかない。  「チッ……コイツも失敗か」  どさりと放り投げられる子供の遺体。もう物言わぬ肉の塊となったそれの名前を呼びながら、駆け寄る子供たち。だが既に遺体は、“成り損ない”の形となっていた。  海老のように曲がり、ところどころに鱗のある身体。変わり果てた友人の姿にすすり泣く子供たちとは対照的に、少年はただ呆然とその光景を眺めていた。  「何故あそこまで、他人(ひと)のために泣けるのだろう」  純粋に、単純に、そう思った。  死んだ成り損ないと泣いている子供たちは、所謂(いわゆる)友達同士だった。だが成り損ないは連れて来られたばかりの新入りで、彼らと出会ったのはつい最近のことだった。だからこそ解らなかったのだ。  出会ったばかりの子供に、どうしてそこまで涙を流せるのかを……  「なかなか上手く行かないな……」  「そりゃあそうだぜ。全く、首領(ボス)も無茶言うぜ」  「無理もないさ。元々、この実験を成功させるためだけの組織のようなモンだからな」  用済みの遺体に目も暮れない、目の前の大人たちは、この施設の研究員だった。  すすり泣く子供たちは知らないが、無機質な眼で大人たちを写す少年は知っていた。  彼らが何故、自分らのような子供たちの命を簡単にも拾っては捨てるのか。一体何をしようとしているのか。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加