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序. 或る研究室にて
今日も子供たちは死んでいく。
少年にとって、何度も見慣れた光景だった。
かと言って、抗う気力などなかった。自分もそうだが、この施設にいる子供たちは元々孤児や捨て子で、帰る場所もないのだ。非力でしかない自分たちが抗ったところで、何が出来ようか。
出来るとしたら、ただ1つ。
「ぎゃああああああああッ!」
実験を受け死を待つか、人間をやめるか。そのいずれかしかない。
「チッ……コイツも失敗か」
どさりと放り投げられる子供の遺体。もう物言わぬ肉の塊となったそれの名前を呼びながら、駆け寄る子供たち。だが既に遺体は、“成り損ない”の形となっていた。
海老のように曲がり、ところどころに鱗のある身体。変わり果てた友人の姿にすすり泣く子供たちとは対照的に、少年はただ呆然とその光景を眺めていた。
「何故あそこまで、他人のために泣けるのだろう」
純粋に、単純に、そう思った。
死んだ成り損ないと泣いている子供たちは、所謂友達同士だった。だが成り損ないは連れて来られたばかりの新入りで、彼らと出会ったのはつい最近のことだった。だからこそ解らなかったのだ。
出会ったばかりの子供に、どうしてそこまで涙を流せるのかを……
「なかなか上手く行かないな……」
「そりゃあそうだぜ。全く、首領も無茶言うぜ」
「無理もないさ。元々、この実験を成功させるためだけの組織のようなモンだからな」
用済みの遺体に目も暮れない、目の前の大人たちは、この施設の研究員だった。
すすり泣く子供たちは知らないが、無機質な眼で大人たちを写す少年は知っていた。
彼らが何故、自分らのような子供たちの命を簡単にも拾っては捨てるのか。一体何をしようとしているのか。
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