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気が付くと狭い廊下に立っていた。目の前に一つだけドアがある。僕は無意識にそのドアを開ける。部屋の中には中世の騎士がいた。
いや違う、フェンシングの格好をしたおじさんだった。「君が新しい天使かね?」とフェンシングおじさんが話しかけてくる。
僕が天使?意味がうまく呑み込めずに黙っていると、「天使と言ってもいろんな部署があってね、君が配属された部署は天気管理部。つまり神様の予報通りの天気になっているかを管理するわけだ。予報通りじゃなかったら、予報通りになるように何らかの働きかけもする」
僕はわかったとうなずき、そして尋ねる。
「なぜ、フェンシングの格好をしてるのですか?」
「まあ、ただの趣味じゃな。こう見えて生前はフェンシングの選手として活躍したのだ」
なるほど。
というわけで、今日の天気パトロールに向かう。フェンシングおじさんは分厚い本を持っている。その本に今日の天気予報が書いてあるらしい。だからフェンシングの剣は僕が持つことになる。
パトロールに行くとき、歩きではなく空を飛ぶ。空を飛べたとき、天使になったんだと改めて実感する。地上には人間たちが歩いている。やっぱり僕らのことは人間からは見えないようだ。
街の公園の上空に差し掛かったとき、フェンシングおじさんが止まる。「変じゃな。このあたりで強い突風が吹くはずなんじゃが、全く風が吹いておらん」確かに全くの無風だった。
「仕方ない、ここは我々が働くしかないな」
そう言って真下に見える木を指差して「あの木に実っているリンゴを一つ落として来なさい」と僕に言う。
え?そんなことするんですか?風を吹かせるようなすごいことするのかと思ってましたと僕が言うと、「ここでリンゴが落ちることが、この本には書かれている。それが一番大事なのだ」と断言した。
僕は木に向かう。木には赤いリンゴがたくさん実っている。持っていたフェンシングの剣で、リンゴを一つ点く。リンゴは下に落ちていく。座っていた男の子の横に落ちる。男の子はリンゴを拾い、上を見上げる。僕と目が合う。でもすぐに男の子は太陽の方に目を向ける。
フェンシングおじさんのところに戻ると、「これで、この世界は神様の予言通りに進むことになる」と笑っていた。
「あの男の子は?」と尋ねる。「あの子は世界を劇的に変える」と言ってから一呼吸して、「一つのリンゴが才能を目覚めさせたんだ」と言った。
1人の男の子が変えていくこの世界を、僕は天使として見守っていこうと心に誓った。
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