81人が本棚に入れています
本棚に追加
うんざりした声をあげた和音の後ろを通りかかったのは、同じ合唱部の八尾君。
こちらもまた、神木君を見て、げんなり、というように眉根を寄せると、
『神木、今日もいるの?』
『うわぁぁ、律己先輩!?』
『こんなことしてる暇あったら、先に行って練習してろよ』
『ちょうど、通り道だったので…』
『どこがだよ。お前の教室、反対側だろ?』
途端に追い詰められた神木君。苦し紛れの笑顔で『えーっと…、移動教室だったんです…』とか言っているけれど、八尾君の前ではもうタジタジ。
ここで、和音はにやりと笑う。
『まあまあ、八尾。神木、迷子なんだってー』
『そうなんですよ!ちょうど愛音先輩に会ったから連れていってもらおうと思って…』
『わかった。俺が連れていってやるよ』
『え?ちょ…ッ、待って!離して下さい!!自分で行けますから!!』
引きずられる神木君を見ながら、『さーて。私達も用意して行こうか?』と笑う和音は、清々した…とでも言ってしまいそう。
これがいつもの放課後の光景。
懐いた子犬を連想させる神木夏弦を日々追い払うのは、高1、高2と同じクラスで、中学から合唱部で一緒だった中川和音だ。
そして、神木君を引っ掴んで連れ去った、端正な容貌の彼は、一部のファンの間でこっそりと、“寡黙な黒髪王子”と呼ばれている、八尾律己。
普通科の私達とは違い、音楽科ピアノ専攻の彼は、常にコンクールで上位に名を連ね、将来、プロを目指している、私が心から尊敬している人だ。
最初のコメントを投稿しよう!