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そうして再びこけしたちの長い旅が始まった。
最初ベルリンに行ってバグダード鉄道に乗ろうとしたが、あいにくこけし用の切符は売ってなかった。
そこでモスクワからシベリア鉄道に乗ることにした。
今度は無事に列車には乗れたが、こけしたちは騙されていたんだ。
なんとロシア人は、こけしたちを燃料用として乗せたのだ!
こけしとは実に悲しい存在だよ。
結局、ウラジオストクに着くまでに、こけしの数は三分の一になっていた。
さらにそこから日本海を渡る途中で、多くのこけしが海の藻屑と消えた。
それでもこけしは最後の力を振り絞り、教えてもらった住所に向かった。
残ったこけしはたったの一体だった。
しかも長く厳しい旅によって、こけしの手足はすり減って、ほとんどなくなっていた。
そして目的の家の前に着いたときには、ついに完全にすり減ってしまって、もはや一歩も動けなくなってしまった。
そこがあの男の住むところだった。
冒頭に出てきた、押入れに住んでいる男だよ。
この男はもう何年も押入れで暮らしていたんだけど、流石に寂しく思うところがあった。
誰か自分と一緒に暮らしてくれる人はいないだろうか。それも女の人がいいな。
男は何故だか急に胸騒ぎがして、久しぶりに外に出てみた。
狭い押入れの中でじっとしていたものだから、体が固い。まるでこけしみたいにこわばっている。
外はいいお天気だ。太陽が眩しい。
男は思わず目を細めて、口をキュッとすぼめた。
暗闇で暮らしていると、こうなっちゃうんだ。もし女の人が一緒に暮らすとなると、その人もそうなってしまうだろうな。
誰かそうなってもいいという人、いないかなあ。
すると、なんとまあ、目が細くて口がキュッとして、体もこわばった女の人が家の前に立っているじゃないか!
もちろんこけしのことだよ。でも男は久しぶりに明るいところに出たものだから、こけしと人間の区別がつかなかった。
男はこけしを抱き上げると、また押入れの中へと戻っていった。
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