さいごの幸せ

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俺には家族はいない。 物心付いた頃からすでに施設に居た。 この事について疑問を抱いた事は無かった。 だが、 俺は家族とは何か知りたくなった。 街を歩けば一緒に歩いている。 どうして一緒にいるのだろうか? これが家族というものなのか。 しかし、俺にはこれまでそんな事には興味も関心もなかった。 俺が思うようになったのは、1週間前のある一件が原因だ。 その日は、年下の男の子が先生に呼ばれて部屋で話しているのを見た。 俺はなんの話をしているのかが気になった。 だから部屋の近くで耳を澄ませ、こっそりと聞いてみることにした。 教室では、男の子を引き取る人が出てきたという話が聞こえてきた。 幼い男の子を引き取る人がいる。 男の子は幸せそうな表情を浮かべていた。 俺はこの表情を見て、俺も家族ができればこんな表情が出来る。この男の子のようになりたいと思った。 それからというもの家族というものが欲しいと感じるようになった。 そして昨日、年下の男の子は新たな家族に迎えられていた。 男の子は幸せそうだった。 引き取った人は、優しそうな女性で、優しい言葉を掛けながら男の子の頭を撫でていた。 俺は、部屋の中からそれを見て、自分が置かれている状況が悲しく感じた。 ある時、先生が俺の名前を呼んだ。 俺は急いで先生の元へ向かった。 先生は、悲しそうな顔をしている。 だが、俺にはその顔の意味がすぐにわかった。 「タロウ。1週間後にお前とはお別れしなくちゃならなくなった。」 先生は俺に言った。 「先生もお前と別れるのは寂しいよ。いい所、見つけてやれなくてごめんな。」 先生は俺に泣きながら語った。 俺はただ黙って先生を見つめていた。
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