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あと1週間で先生とお別れするのか、悲しかったが、涙は出なかった。
「タロウ!これから1週間、いっぱい楽しく遊ぼうな!」
先生は涙でぐしゃぐしゃになった顔を無理やり笑顔にしていた。
刻一刻と迫る別れの時、俺は先生たちに感謝の思いを巡らせていた。
思いを巡らせる内に、小さい頃の記憶を思い出した。
俺の側にいる美しい女性。これが誰だかは思い出せない。
だが、何故か安心する。温かい日々だった。
俺が他の兄弟と遊んでいる時も、女性は俺たちを温かく見守っていた。
懐かしい記憶。
俺は幼い頃、幸せだったことを思い出した。
だが、今は先生に感謝している。
1人だった俺を拾って、毎日ご飯を食べさせてくれた。
一緒に遊んでくれた。
とても幸せだった。
たとえ家族でないにしても、先生は俺を可愛がってくれた。
俺もお別れは悲しい。
新たな世界へ旅立つ俺を先生は喜んでくれるだろうか。
そしてお別れの日を迎えた。
俺は悲しさを顔に出さないようにしながら、
部屋で先生を待っていた。
すると先生が、俺を見て泣き出した。
先生を見て悲しさが込み上げたが、
俺は悲しさのあまり声が出なかった。
「タロウ、これまでありがとう、そしてさよなら」
先生は押し殺したような声で呟いた。
俺が先生の元を離れて、外に出ようとすると
「タロウ…行くな…行かないでくれ…」
背後から先生が涙を流して叫んでいた。
この時、俺は先生と家族だったのだと実感した。
先生、悲しまないでください。
俺、タロウは笑顔で行きます!
だから先生も笑って見送って下さい。
俺は泣きじゃくる先生に背を向け目的の場所へと歩き出した。
部屋に入った時、急に酷い睡魔が襲いかかってきた。
その時、
「待って!」
女性の大きな声が部屋の中に響き渡った。
「待ってください!私がこの子を引き取ります」
女性はそう言って、俺の方へと近づいてきた。
俺は眠たい目を無理やりこじ開けながら、静かに女性を見つめていた。
そして俺は意識を失った。
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