林君のロボットは開発中

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なんだか、曇っているのか、晴れているのか微妙な空。 改めて林君と肩を並べてみると、林君はいつの間にか僕の背を越していた。 サブバッグを持っている林君の手は、厚く、たくましかった。 林君は空を眺めて、口を開く。 「ごめんね。なんか、気を遣わせちゃって」 僕は黙って林君を見つめる。 「作る暇がなくてね。うちは家に母さんしかいないんだ。僕が小学生の頃に離婚しちゃって、あの時ただでさえ貧乏だったから、今も辛い。だから僕が母さんを支えないと、って思ったんだ。ロボットなんて必要ない。僕だけで十分 なんだ。僕なら母さんを一生支えていける」 林君は強気に言う。 まさか林君にそんなことがあったなんて。 僕は切なくなる。 しかし、林君は笑う。 「なんなら、僕がロボットになればいい。でも、今は開発中。まだ出来ることが少ないからね。けど、たくさん経験を積んで、母さんを楽にさせてあげられるロボットになるんだ!」 林君は拳を空に突き出す。 いつも料理本を見ていたのは、このためであったのだ。 僕は一瞬にして熱い気持ちになる。 僕は走って林君を追い越し、曲がり角を曲がる。 林君は僕を追っては来ないで、のんびりと歩いている。 ここから姿は見えないが、声は林君まで届くはずだ。 僕は大声で叫んだ。 「林君は、ロボットなんかにならなくていい。林君は林君のままでいいんだ。 林君はロボット以上の存在だから!」 頬を淡い赤色に染めて息を荒げる。 林君の様子が気になり、曲がり角からこっそり顔を出す。 林君は、ロボットのようにぎこちなく歩いていた。 一歩一歩に力を込めて熱心に歩いていた。 僕はその光景を見て、くすりと笑う。 林君は僕に気づくと、笑った。 林君はぎこちない動きをやめて、華麗にお辞儀をする。 「ありがとう」 林君は顔を上げる。 数秒、僕たちはお互いを見つめあう。 そして、面白おかしく笑った。 笑いながら、僕は強く思う。 やっぱり、林君は林君のままでいいんだ。
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