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はじまりは、蜜のアルバイト先であるコンビニだった。
変装して買い物をする俺が黒木虎壱だと気付く様子もなく、無表情でレジを打っていく。
第一印象は、地味だけど美人な店員。特殊な職場のせいで目が慣れている俺でも「あ、綺麗な子」と感じるような透明感がある。
なんとなく、惹かれていた。
理由も理屈もなく、吸い寄せられるように惹きつけられていた。
決定的だったのは、俯いた表情の儚さ。
それを見た瞬間、マスクの内側の息が震えたのを覚えている。
話しかけたい。でもこんな、怪しい変装野郎では不審がられる?むしろ黒木虎壱であることをアピールしてやろうか。肩書きをひけらかす男は、お嫌いですか?
ぐるぐると思考回路が巡っているうちに、「ありがとうございましたー」と透明な声によってレジを追い払われてしまった。
それから数回ほど、そのコンビニを訪れた。
あまり頻繁だと〝コンビニめっちゃ来る奴〟と思われそうだし、何より〝わたしに会いに来る気持ち悪いストーカー〟と勘づかれたら困る。
でも、そうやって、たまに買い物を来るうちはよかった。
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