ぐるり、転

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そんな彼女を、やさしく宥めるように笑う男。どう見ても仲睦まじいふたりの様子に、心臓がぎゅっと締め付けられるのを感じた。 なにこれ、くるしい。 車の中で、ひとり。心臓のあたりを抑えている俺は、側から見たらなんとも情けないし不甲斐ないだろう。側から見なくてもわかる。 だけど、心臓へのダメージはさらに続いた。 歩き出したふたりが、手と手を繋ぎ合わせたのだ。 どちらからともなく、自然な流れだった。 まるでふたりだけの常識みたいに、当たり前に。 だけど、しっかり、幸福の共有が含まれていて。 さっきのが締め付けられるような痛みなら、こんどは深く抉られるような痛みだった。 もともと、彼女の恋人になりたいなんて、そんな烏滸がましいこと思ってもなかった。 自分のものにならないかわりに、誰のものでもなく、ただ、コンビニで働いていてほしかった。 でも、そんなのはエゴだ。 当然ながら、コンビニで働く姿は彼女のほんの一部分にすぎない。それだけを知っていればよかったのに、シフトから上がった後の彼女にまで踏み込んでしまった。 そうして勝手に抉られて自滅しているわけだから、もう、どうしようもない。 なーんだ。かれし、いたんだ。
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