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 それから何日かが過ぎた。ヒカルさんの部屋で家事をしながら毎日を過ごす。  彼の生活の物の中に、ちゃんと私の物があって、私もここで暮らしていたはずなのに、未だに何も思い出せないのが悔しい。  彼は仕事へ行き、帰ってくると私がいることに満足そうに笑って、夕飯の手伝いをしてくれる。  本当はもっと先を望んでいるのかもしれない。恋人の私との生活はどんなだったんだろう。  そんなことを考えるけれど、ヒカルさんはそれに関しては何も触れず、ただそこに“私”がいることを肯定してくれる。それも申し訳なくて、自分の存在に嫌気がさす。 「今日はクローゼットを整理しよう」  そう意気込んだ私は何気なしにクローゼットを開け、その中を探る。と、その中に古びたお菓子の缶のような、金属の箱を見つけた。 「なんだろう、これ……」  少し周りが赤錆びたそれは、とても大切なもののような気がした。箱の蓋には、彼の名前が書いてある。  勝手に開けてはいけないものかもしれない。だけど、これを開けたら“本当の私”が見つかるかもしれない。  せめぎ合う気持ちの中、私は恐る恐るその缶に手を伸ばす。そうっと缶の蓋を開けた。  ──ガッチャーン!  思わずそれを落としてしまった。缶の中身が、はらりと床に散らばっていく。  それは、私の写真。それも、私は高校の制服を着ていた。どこかから盗撮したような、カメラ目線ではない私が、その中で笑っている。床に散らばった写真は、どれも同じようなものだった。  “幼いころから仲が良かった”はずなのに、ヒカルさんと共に映っている写真は一枚もない。 「私が高校生ってことは、ヒカルさんは大学生……確か、生活もすれ違っていたって……」  ──何故?  ──どうして? 『それにしても、自分の好みの女を育てようだなんて、発想が光源氏みたいですね』  何日か前に見た、ワイドショーの事件が頭をよぎった。誘拐され、洗脳され、犯人の恋人として暮らしていたというあの事件。 「ヒカルさんに限ってそんなこと……ある?」  ──彼は、一体何者?  ──私はこのままここにいていいの?
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