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「ヒカルさん、手……」
部屋についた彼は、私の手を離そうとしなかった。リビングについても、彼はやっぱり手を離してはくれない。
「ヒカル、さん……?」
私の問いかけに、ヒカルさんは体ごと振り返った。
「なあ、エリ……」
彼の揺れる瞳に、私の姿が映る。
「無理に思い出そうとしなくてもいいんじゃないかな」
「え……?」
「前にも言ったけど……」
ヒカルさんの真剣な眼差しは、反らすことを許さないようで。
「エリの記憶が戻らなくても、エリが俺のことを忘れても、俺は何度でもエリを好きなるんだと思う。俺は、今のエリも好きなんだ! だから……」
ヒカルさんははっとすると、急に小さな声になった。
「もちろん、エリが俺のことを好きになるかどうかは、わからないけれど」
ヒカルさんは頬を染めて、視線を逸らしながらそう言う。
私は、彼が愛しいと思ったのか──
チュッ
──彼の頬に唇を寄せた。
「エリ……?」
ヒカルさんの顔が、急にこちらに向けられる。
「私も、好きなんだと、思います。ヒカルさんのこと」
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