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「お兄ちゃん、だよね……?」  目の前の彼はシャツのボタンも閉めるのを忘れて、目を丸くしたままただこちらを見ていた。 「……思い出したのか」  しんとした夜の部屋に“お兄ちゃん”の声が小さく響く。 「やっぱり、お兄ちゃんだ」  どうして忘れていたのだろう。いつでも私を助けてくれる、優しいお兄ちゃん。  彼は、大好きな“お兄ちゃん”だ。 「背中の傷見ちゃって」 「ああ、これな……」 「うん、私をかばってくれた、お兄ちゃんの傷跡……そんなにくっきり、残っちゃったんだね」 「いいんだ。あの時はエリが無事だったから」  お兄ちゃんは視線を彷徨わせ、頭を掻いた。  私は短大を卒業後、このお兄ちゃんの部屋にやってきた。仕事が決まらなかった私は、都会で就活するために。  あの布団が妙に肌に馴染んだのは、もともと私の物だったから。おそろいのマグカップは、家族になった記念に両親からプレゼントされたものだっただから。  けれど、どうしてお兄ちゃんは── 「嘘ついてごめん。気持ち悪いよな、兄貴が妹に手だすなんて」  お兄ちゃんはそっぽを向いて、喋りだした。 「記憶が戻らなければ、このまま一緒に恋人としていれるんだろうな、って思った。バカだなぁ、俺」  お兄ちゃんは立ち上がろうとする。 「悪ふざけがすぎた。忘れて」  待って、お兄ちゃんは、私が──
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