一「化野圭」

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 午後十時を回ってから、いつものように黒い服を着て玄関に出ると、さっきの少女が沓脱に立っている。  圭の足音に反応して振り向くと、脱兎の如く逃げだそうとするけれど、その直前に首を掴んで捕らえた。 「…………っ!」 「影牢相手に逃げだそうってのかお前は」 「……嫌だ」 「は……、っ!」  声を聞いた瞬間、ドアの外に化者の気配を感じていた。  何故ここに、と考える暇もなく、圭は少女を後方に押し込んで玄関を飛び出す。左手でダガーを抜き出し、目の前の黒い障害物を断ち斬った。  上を見る。複数の黒い化者が次々と降ってくる。 「ち、これはマズいな」  ここで戦闘するわけにもいかない、と誘き寄せようと動くのだが、相手はそれには乗ってこない。寧ろドアを破ろうとしている。 (まさか……)  圭はドアの前に居る化者の頭部に空羽を投げつける。それが一直線に飛んでいき、後頭部に突き刺さる。ダッシュでその化者に近寄ってダガーを引き抜く。 (五体。楽な相手だ)  一瞬のタメの後、破裂音を響かせてダッシュする。  距離を詰めた瞬間、並んでいる敵の首を一太刀で断ち斬る。  それを認識した敵が圭に向かって腕を伸ばす。それを完全に見切った圭の太刀筋がその腕を踏み込みながら斬りつける。踏み込みから敵の足元で上方向に跳びつつ斬撃。  化者は血の一滴も零さずに倒れ、残りの敵に視線を向ける。  恐怖も感じない敵に撤退の選択肢はなく、ただ圭を潰そうと動くのみだった。 「だから、楽な相手だと思ったんだ」  空羽を逆手に持ち替える。それを正面に構え。  間合いに敵が入ったと同時に全力で斬りかかる。 「閃刃・旋風」  渦を巻く斬撃が、残った化者を細断して吹き飛ばす。  撒き散らした肉片は時間経過で消滅するので、気にはしない。 「ふ」  息を吐いて、面倒そうに首を傾げた。  扉を開いて少女の不安げな顔に意識を向ける。彼女の目は哀しそうに震えていた。 「君、声を発せないんだな」 「……………………」  小さく頷く少女に、圭はわかったと言う。 「話そう。筆談でいいから、事情は説明して貰うよ」  驚いたような表情のまま固まっている少女の手を引いて、居間に向かう。大体のことは予想できていた。
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