一「化野圭」

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『つづらおりゆきね』  少女が紙に書いた名前を、新奈は漢字に直す。 「多分、『葛織雪音』だよ。この周辺には記録はないけれど、葛織家は近くの土地に根付く名家だから」 「ああ、俺も知っている。警備員の時にメンバーに同じ名前の奴がいたからな」まあ、昔の話だからな。と、思い出すのも面倒そうだったが。  声を発せない理由を聞いてみると、雪音はがりがりと鉛筆を走らせる。筆圧は強いようで、太い筆跡がよく目立つ。 『こえをだすと けものがそばにくるから』 「声を発動トリガーにした異能かな」  化者を都合良く呼び寄せる異能なんてものは聞いたことはないけれど。 「まるで呪いだな。そんなものを持っても意味なんか無いのにさ」 「呪いか。確かにこういった能力と言うより呪詛に近いかもね。特に雪音ちゃんは十歳を迎えていないから」  異能という能力は普通、十歳を迎えると同時に発顕する。しかし雪音は現在六歳だ。異能は考えられないし、呪術を使うにはデメリットの大きい術でしかない。 「霊能にしても扱いきれないものだからな」  圭が相手にしている「化者」を呼び寄せる意味など無いから、人為的なものかと考えざるを得ない。 「どうする、圭くん」 「さあ。先ずは雪音の意思を訊かなきゃあな。なあ、雪音? お前、家に帰りたいか」  その質問に、雪音はぶんぶんと首を振って拒絶した。 「そうか。じゃあここに居ればいい。俺は一応ここを護っているし、一般人には気取られない場所に建っているからな」  入り組んだ住宅地は、迷路のように繋がりが複雑だ。その奥深くに建っている孤児院を探るのは不可能に近いのだ。 「じゃあ、新奈」 「うん。後は任せて」
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