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「あれ、居ないのか……」
リラ=ユーディットはいつものように黒いパーカーに赤いチェックのプリーツスカートという普段着で、陸裏千歳の通う学校に来ていた。
休日なのは解っていたけれど、家にも街にも見当たらないのでは、行く先などここくらいしかないのだと思っていた。
「おかしいな、街の外に居ても感知できるはずなのに」
そもそもこの二年間で千歳の行動パターンは理解しきっているはずだった。今更そのルーティーンから外れた行動を取るとは全く思えない。
「うーん……、気配は消えてないし、死んでいるわけでもないよね」
死神が関与できない人間の死に方など、存在しないとリラは解っている。だからこそ、彼女には千歳が未だ死んでいないと確信できているのだけれど。
あまり学校内で実体化してるわけにはいかないと解っていたけれど、それでも探索するにはこの方が便利なのだった。
「ねえ、そこの君」
後ろから声を掛けられ、リラは思わず振り返った。そこには見知らぬ男子生徒が彼女を不思議そうに見ている。
「何かな?」
「いや、誰か探しているのかなって」
何故か怪しんでいる様子はなかった。知らない人にそういうことを思わないのは、楽天的なのか、能天気なのか。
そこに対してリラは考えることなく、そうだねと頷いた。
「千歳くんを探してるんだ」
「千歳? あいつなら昼頃に歩いてるのを見かけたけど」
「どこの辺りかな?」
「商店街かな。何故かその途中で消えたけれど」
商店街。さっきも見回った場所だったはずだけれど。見落としていたのだろうか?
雨に濡れる商店街の路地の奥で、リラは薄く漂う千歳の匂いを感じ取った。そこに混じる血の匂いに、軽く眉を顰め。
蒸気に混じって立ち昇る土の香が覆い隠しているからこそ、この異常な状況には、外の人々は気付かないのだ。
「これ、血文字なのかな」
コンクリートの壁に赤い文字でリラに向けたメッセージが書かれているのだった。
「Watch silently,useless」
リラの右手に、びきりと力が走った。
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