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2「ディストーション・ソウル」
ずきりずきりと痛む頭に血が巡る感覚。その熱に酔いながら、ぼくは目を覚ました。
「くそ、なんなんだ」
意識が途切れる直前の映像が戻ってくる。どうやら後頭部を殴られて気を失ってしまったらしい。痛みに顔をしかめながら立ち上がると、どこか知らない場所に居ることに気が付いた。
深い森だった。携帯端末でマップを見ると、位置情報が出てこない。というか電波が届いていなかった。
「どこだろう、ここは」
考えていても仕方ないので、移動し始める。こんな場所で救助など求められないのだから、自力で何とかするしかない。地面には傾斜もなく、山ではないようだけれど。
フィトンチッドの匂いが濃い。そこらの森とは違う空気を持っているようだ。
「方角も判らないんじゃなあ」
とりあえず正面に進んでいく。樹海というか密林というか、そう言った雰囲気は新鮮だが、今それを満喫している余裕は無い。このまま脱出できなければ、衰弱死するのは目に見えているからだ。
あの死神の狙いがそれであるなら、仕方のないことなのだけれど。
辺りは大分暗く、見通しが利かない。おまけに空腹を覚えていて、相当な時間眠っていたのだろうと推測はできる。
ざくりざくりと踏み分けていくと、冷たい風が流れているのに気付く。
「………………?」
風の吹く方向から、微弱な光が見える。それが何なのかは判らないけれど、目印にするのは危険な気がした。
それを迂回するように大きく足を逸らして、ただ道にもなっていない茂みを進んでいく。
その奥の暗闇から、何かが飛んできたのを知覚すると、ぼくの体躯は自然とその場に蹲っていた。
「危ない、な!」
真後ろに着地したそれを見ることもなく駆けだす。こんな場所に居るような獣に人間が生身で立ち向かえるわけもなく。生い茂る草を掻き分けて奥へと走っていく。
走っていくと草や木の葉で皮膚が切れる。しかし血はあまり出ないですぐに止まっていた。傷の治りは早い方だと思っていたけれど、これはよく解らない。
「うわっと!」
後方からの気配に大きく真横に跳んで躱す。地面を転げると近くの木に背中を打った。
息を吐いて立ち上がると、獣……ツキノワグマがこちらに視線を向けていた。逃げ切れるものでもないか、と半ばあきらめ気味に肩をすくめ、両腕を構える。
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