1「死神とぼく」

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1「死神とぼく」

「でえええやあああああああああ!」  黒いパーカーを着込んだ少女が、その手に持った大きな鎌を振るう。  刃は重く鋭く、当たれば確実にぼくの命を刈り取るだろう。  最初は、そう思っていた。  銀色の切っ先がぼくの右手に触れた瞬間、「ばちぃん!」と破裂するような音を立てて弾かれる。  その残響が鼓膜を震わせると、目の前の少女が不機嫌そうに赤面する。 「もう! なんで? 何で殺せないの! もう二年も期限を過ぎてるのに!」 「うーん、そんなことをぼくに言われてもね」  幼稚に感情をぶつけてくる彼女に対してそう返しても、怒りが収まるわけもなく。 「うんがー!」  鎌を持たない左手で殴ってきた。  全く痛くないけれど。  どうやら、死神に殺されるには、その鎌で刈られないと駄目らしい。その攻撃が弾かれることはなかったから、そういうことなのだろう。  二年前から死神に狙われていた。  道を歩いている時に唐突に顕れた少女に鎌を振るわれた時にはさすがに驚いたけれど、しかしぼくがその鎌を弾いてしまってから、執拗に付きまとわれてしまっていたのだ。  もはや憑依である。  死神に取り憑かれるって凄いな、と思ったものの、しかしその死神自身がぼくと同じくらい、十代の見た目の少女であれば、特段恐ろしくもないのだった。 「いや、相変わらず可愛いな」 「うるせー!」  怒られた。苛立っているように見える。口が悪いのが問題だな、と思いつつ、いつもと同じように帰り道を辿る。  そろそろ夏が来るのか、遠くから湿気を含んだ風が届いているが、そこに対して思うところはない。  夕方の学校帰りに襲われていては堪らない感じではあるが、しかし死神にそんなことを言っても意味は無いことくらい解っていた。 「なんなの、君は! 既に死んでいるはずなのに、しぶとく生き残って、どういう仕掛けなわけ?」 「いや、知らないけど」  生まれた時からこんなもんだ、意識したこともなかった。 『死ににくい』体質、そういうことか。 「うんぎー!」  死神少女、名前をリラというそいつが鎌で何度も打ち付けてくる。  そのたびにばちんばちんと弾かれているので、衝撃がこっちにも来るのが少々鬱陶しかった。  さすがにそれを掴んで止める。  腕力自体は人間と大差ないらしく、ぼく程度の力で簡単に止められてしまった。  そのまま鎌を掴んで引っ張っていく。  いつものように、家に向かうのだ。
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