第1章:未知のイケメンとの出会い

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「このあと、あの子に世界ちゃんの授業受けてもらおうよ」 「いっ……いやいや! なんで? そんな無理に僕の授業受けてもらわなくていいよ!」  慌てて首を振る。共通カリキュラムは、自分ともう一人、女性講師の市川と交代で担当している。わざわざ外見ランキング最底辺の自分が担当する今日を選ぶ必要はない。 「何言ってんの! あの子は、世界ちゃんが勧誘した子なんだから、ほら行くよ!」 「待って……ちょっとっ…」  一条はそのまま星野の腕をひっぱり、そのまま控え室の外まで連れ出した。歩いている道中、授業を待っている女子が数名いて、一条を見て目を輝かせているのを横目で見る。自分が隣にいることで一条が映えるのもわかる。これは自分以外のすべての先生に言えることだ。むしろ、自分のせいで空気を汚したくないとさえ思ってしまう。 「おーい、そこの新入生!」  一条の声で、説明会を終えてミーティングルームから出てきた生徒が一斉に振り返る。その中に、当然さっきの彼もいた。そして引っ張られる自分を見つけて、あっと驚いた顔を向けた。 「なぁ、君、俺たちのこと覚えてる?」 「このあいだの……」  男の視線が自分に向いているのを感じ、星野は慌てて目線を逸らす。 「ほら、世界ちゃん! ご挨拶しなきゃ。かわいい生徒だよ」  体ごとぐいっと引っ張られ、彼の前に引っ張り出される。 「あっ…えっと、その、ようこそいらっしゃいました……」 「何それ、ファミレスかっての」 「え、もしかして、講師の先生……なんですか?」  その言葉に隣にいた一条が吹き出した。 「うっはっ! 世界ちゃん、子供っぽいからな。そうだぞ、星野世界先生様だぞ。ほら講師一覧で端っこにいるだろ」 「ちょっ……余計なこと言わなくていいって」  男は一条の指差した廊下に貼られている講師一覧の写真と、自分を、驚いた顔のまま見比べていた。スクールではスーツだが、あのときの私服はダッフルコートにネルシャツ、デニムという格好だったので講師に見えなくとも無理はない。 「えっと、藤原……銀河? おまえ、銀河っていうの? 名前までかっこいいな、おい」  一条はめざとく、彼の首にかかっていた藤原(ふじわら)銀河(ぎんが)と書かれたネームプレートを手に取る。  あのとき銀河と呼ばれていたのは本当に名前だったようだ。確かに、名前のかっこよさと外見がちゃんと釣り合っている。これこそが外見が名前に負けてないという例だ。 「よし、藤原。このあと予定ないなら、この星野先生の授業を受けていけ」 「え?」 「ちょっ……隼人、いい加減にしてよっ」  小声で一条に抗議するが、受け入れてくれる様子もない。 「星野……先生の授業、このあと、なんですか?」 「おお、そうだ。世界ちゃんの授業は、入会してからすぐしかしか受けられないから、貴重だぞ」 「無理に受けなくて大丈夫だよ! 他にも市川先生っていう優秀な先生が同じカリキュラムやってるから、そっちでも」 「じゃあ、先生の授業受けていきます」  彼は穏やかに、こちらを向きながら応えた。こんな状況なのに目が合った藤原の顔を『かっこいい』と思ってしまう。これは本当に、そのへんの女性がほっておかない顔だ。 「そうこなくっちゃ!」 「えっ、本当に……?」  藤原に見とれていて、結局、自分の授業を受けるという話になっていることに気づく。 「よし、じゃあ俺のこともついでによろしくな! 人気ナンバーワン講師の一条隼人とは、俺のことだ! 共通カリキュラムの後の指名は俺によろしくね!」  一条はちゃっかり周囲にいた女子生徒に愛敬を振りまきながら、再び自分を引っ張って来た道を戻っていく。一条の後を歩きながら、後ろをちらりと振り向けば、藤原はこちらをじっと見ていた。その顔もまた物憂げでカッコいいが、見られていることが恥ずかしくなり、目を逸らす。 ――きっと、僕みたいな平凡な外見が珍しいんだろう。  それに比べて、藤原の顔の美しさは群を抜いていた。もともと、美しいものを見ているのは好きだ。自分に持ち合わせていないからだろう。決して迷惑はかけないから見つめるくらいは、許して欲しい。そう考えるのは、いつものことだった。
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