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悪魔共も嗤わぬ暗闇
闇には2種類存在する。
ひとつは、悪魔が巣食い騒がしい闇。
もうひとつは、悪魔すら嗤わぬ静かな闇。
自分の手すら見えない暗闇。
声は、聞こえない。
自分がここにいる理由は思い出せないが、これが昔、クラウディアの言っていた悪魔すら嗤わぬ闇というものだろう。
どう対処すればいいんだっけ。
ティアは、過去の記憶を辿る。
***
「悪魔のいる闇は、まぁそこにいる奴にもよりますが、人間にとってろくでもないことはあるのは事実なので、近づかない方がいいですね」
クラウディアの教えに、ティアもしばらくクラウディアを物言いたげな視線を向けてしまう。
「えぇ、本当に。見て嗤うだけが趣味ならいいですが、腕を引かれなんてしたら危ないですよ。悪魔ってろくでもない連中の集まりですから、触られたら保護者を呼びましょうね」
星でも飛んできそうなウィンクに、ティアは一度視線を下す。
目の前の胡散臭い烏の仮面をつけた男。彼は、正真正銘、悪魔だった。しかも、巷ではわりと有名な大悪魔。
魔王が倒された後、世界的に有名な魔法学校で教鞭をとっているらしい。
「……」
もう一度顔を上げれば、紅茶に口をつけていたニッケルがこちらに気が付いたように目が合った。
「ニッケル」
「素晴らしい! では、私はおっかない悪魔からとんずらするとします! アッディーオッ☆」
保護者の名を呼んだ途端、決めポーズと共に姿を消したクラウディアのいた場所に落ちてくる花丸の書かれた紙。
「これだけ我の匂いのついたティアに、毎度毎度臆せずにちょっかいをかけるなど、アイツ程度だがな」
ニッケルはティアを抱きかかえる。
「マーキング?」
事実ではあるが、本人から言われるのは、さすがのニッケルも動揺する。
「犬が道端でおしっこするのは、自分のものだってマーキングするためだって、おばあちゃんが教えてくれた」
近所の子供に教える程度の知識だ。気にすることではない。
しかし、抱えあげたティアが、自分がティアへやるように耳の裏を撫で、頬を摺り寄せる姿に、そっと抱き寄せ、問いかける。
「我をマーキングか?」
「うん」
「ハハッ高慢な人間だ。実に良い」
「……マーキングにマーキングって変?」
「何もおかしくないとも。番というだけだ」
離れそうになるティアの手を取り、元の位置に戻す。
***
よくよく思い出していけば、幼い時は、確かに騒がしい闇に本能的に恐怖していたような気もする。
「あ」
わかった。
「ニッケル、いたんだね」
悪魔すら嗤わぬ、嗤えぬ暗闇。
それは、彼らすら恐ろしく、頭を垂れる相手がいるから。
「素晴らしい。さすが、我が愛」
悪魔の中の悪魔。
悪魔の名となった大悪魔が、愛する人間を愛でるための暗闇。
肌に触れる闇に、そっと触れ返した。
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