小姓

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そんなつもりじゃなかったんだけど…… 仕事の途中で、兼続様直々にお風呂を案内させてしまって申し訳なかったな。 でも、正直身体のベタつきや匂いが気になっていたからありがたいな。 湯浴み場に着くと、兼続は 「ここで待ってて。すぐに湯と替えの着物を持って来るから」 と口早に言ってどこかへ去ってしまった。 湯と着物を持って来るって言ってたけど…… まさか兼続様、お湯を沸かしに行ったの?! そんな、それくらい自分で用意するのに……! 叶芽は申し訳ない気持ちから、兼続の後を追いかけようと思ったが すでに姿を見失ってしまった後であったため、諦めてその場で待っていることにした。 暫くすると、兼続が大きな桶にお湯をたっぷり溜めて戻ってきた。 「待たせてすまない。この湯を使ってくれるかな。 洗うための布はこれで、こっちが着替えで……」 てきぱきと支度をする兼続を見ていた叶芽は、思わず 「兼続様、普段からご自分でお風呂……湯浴みの用意をされているのですか?」 と尋ねた。 「そうだよ」 「そうなんですか……」 当主が湯浴みをするための準備って、てっきり屋敷のお手伝いさんが用意するものだと思っていた。 湯浴みや食事は専属の女の人が何人かいて 甲冑を着たりといった戦の支度は側近の男の人が手伝ったりして…… 武士ってそういうイメージがあったけれど、兼続様はそうではないみたい。 「あの、ありがとうございました。 次からは自分で用意できるようになりたいので、後で湯を沸かす場所を教えてもらえますか?」 「ああ、湯は厨房の釜で沸かしてきたんだ。 昨日夕餉を配膳していた君なら、厨房の場所はもう知っているんじゃないかな?」 「え?!厨房って……ここから結構離れてませんか?! ここまでお湯の入った桶を運んできたってことですか?!」 「これが結構、腕を鍛えられるんだよ」 「いやでも……」 「ほら、湯が冷めてしまう前に入った方がいい」 兼続に促され、桶の前に進み出た叶芽だったが その場を去ろうとしない兼続に、もやもやとした気持ちが生まれた。 「あの……着物を脱ぐので、湯浴み場の外に出て頂けると……」 おずおずと叶芽が言うと、兼続はこう口にした。 「君の脱いだ着物をこのまま預かって、洗濯しに行こうかと思ったんだけれど……俺がここに居るのは嫌かな?」
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