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戦禍の導き
「——かはっ!!」
次の瞬間、叶芽はむせ返りながら息を吐き出した。
「はぁ……っ、は……っ」
あれ……私、死んだはずじゃ……
気付くと身体は床の上に寝そべっており、首から括っていた縄もどこかに消え失せていた。
何が、どうなってるの……?
叶芽が戸惑いながら起き上がると、目の前に男の顔があることに気づき、ぎょっと後ずさった。
「ひゃっ?!」
「良かった、目を覚ましたようだね」
だ、誰?!この人!
それに……甲冑なんて着てる……!
叶芽は目の前の男が身に付けているものが明らかに現代とは異なるものであることに戸惑いつつも、
冷静に状況を整理しようと深呼吸した。
ええと、私は間違いなく死んだはず……。
全く人の気配のない場所で首を吊って、息があるうちに誰かに助けられたとは到底思えない。
ということはここは黄泉の国?
いや、だとしたら感覚がはっきりあり過ぎるし、
何よりどうしてあの世で見知らぬ武士らしき人に話しかけられる道理があるんだろうか?
じゃあやっぱりここは現実……
「あの……すみません、ここはどこでしょう……?」
叶芽が甲冑の男に尋ねると、男はぽかんと口を開けた。
「ここは新発田城——君が仕える主君の居城じゃないのか?」
「え?」
「だから……君は新発田重家の家臣で、この城に仕える兵なんだろう?」
「シバタシゲイエ?……ええとすみません、どなたでしょうか……?」
叶芽が首を傾げると、男は困ったように腕を組んだ。
「おかしいな。味方の顔はすべて記憶しているはずだから、
見覚えのない顔の者は新発田側と思ったんだが……。
君、まさか上杉の兵なのか?」
どうしよう。
この人の言っていることがさっぱり理解できない。
けれど要するに、この人は『上杉』側の人間であり
私のことを敵の『新発田』側の人間だと思っているみたい。
この人は甲冑を着ているし、ちょっと信じられないけれど
今私はお城の中にいて、二つの勢力が争い合っている最中で目を覚ました——という状況らしい。
私が今いるここは……まさか戦国時代……?
いや、落ち着いて……!!
今はとにかく、この人の質問にどう答えるべきかを考えよう。
少なくとも私はどちらの勢力の人間でもないのだけれど
『上杉』と言えば、私のご先祖様が仕えていた直江家の主君のはず……!
「——どちらかと言えば上杉側の人間です!!」
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