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何気なく叶芽が尋ねると、兼続は一瞬表情を曇らせた。
だが、すぐにまた笑みを浮かべてこう言った。
「直江家に婿入りしてからは一度も会ってないかな。
直江家や上杉家での政務が色々あるから中々帰る機会がなくてね」
「……お忙しいんですね……」
「ああ。だから君が小姓として身の回りの政務を手伝ってくれたら大助かりだと思ってる」
「!それじゃあ、兼続様がいつか余暇を取って弟さんに会いに行けるよう、頑張ってお手伝いしますね!」
「——ありがとう。
ではお言葉に甘えて、早速書状の整理から手伝ってもらおうかな」
兼続は、この時代の文字に不慣れな叶芽に
書状の読み方を丁寧に教えていった。
「これは上杉家絡みなのでこっちに仕分けて……」
「そうそう。送り主がこの名前のものは全て上杉関係。
で、こちらは——」
暫く兼続と二人で書状の整理をしていた叶芽だったが、
額から流れ落ちる汗を拭った時、はっとして兼続から距離を取った。
「どうかした?」
「あっ……あの実は、昨日からお風呂に入っていないので……
その、あまり近くに寄るとご迷惑かなと……」
「ん?——ああ!そういえば湯浴みの場所を伝えていなかったね!」
叶芽は自分の汗の匂いを気にして口にしたものの
兼続は逆に申し訳なさそうに叶芽に謝った。
「すまない、汗や汚れを落として寝たかっただろうに」
「い、いえ!」
「書状も今日の分は片付いたことだし、湯浴み場を案内するよ」
兼続は立ち上がると、叶芽について来るよう言った。
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