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「……あなたが首を斬って欲しいと言うのなら、私はあなたの首を隠します」
「え……?」
叶芽の言葉に、男は訝しげに顔を上げた。
「あなたが自分の首を、シバタさんという敵に持って行って欲しいと私に頼んでいるのだとしたら、
私はあなたの首を誰にも見つからないところに隠します!」
「どうしてそんなことを?」
「それを聞いたら、自分の死が無駄になると考え直してくれるんじゃないかと思って……!
自分の命を、他の人達を助けるために使うなんて間違ってます!」
叶芽がそう言うと、男は
「俺は自分の命より、味方の兵を生かすことの方が重要だと思ってるよ」
と告げた。
「……どうしてあなたは、自分の命を助けることを念頭に置かないんですか……?」
叶芽は悲しげに項垂れた。
「あなたは……私のことを助けてくれました。
そんな優しい人が、自分のことを後回しにして
自分以外の誰かの為に命を投げ出そうとするなんて、
そんな悲しいことを黙って見ていられません」
私のような……
自分がこれ以上惨めになりたくないから、これ以上辛い思いをしたくないからと
自分の為だけに命を捨てた人間と、この人は訳が違う。
私はこの人に死んでほしくない。
出会ったばかりの見知らぬ相手だけれども
この人の切腹をどうにか阻止したい。
「……君、泣いているのか……?」
「えっ……?」
男に指摘され、はっと叶芽が目元に触れると
そこからは止めどなく涙が零れ落ちてきていた。
「っ、ごめんなさい……。
こんな時に涙なんか流したりして……困惑させてしまって……」
叶芽が目元をこすりながら謝ると、
男はそんな叶芽をじっと見つめた後、こう口にした。
「俺の為に泣いてくれているんだね。
味方を死地へ追いやった俺に比べたら
君の方が、ずっと優しい男だよ」
「……男……?」
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