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アキが一度天をあおいだ。
「あーもう、かっこいいやつめ。しょうがないから見てやる」
「ココちゃん、無理はダメだよ」
「一斉攻撃?」
男子三人が改めて水鉄砲を構えた。
オバケの数が多いなら、消臭剤をまき散らして、バラバラになったところを一体ずつやっつけるしかない。
時間もかかるし大変だけど、そうするしかないよね。
ギンちゃんと颯真くんが銃口を高い位置に向けて引き金を引こうとした。
直後、
「待って!」
リズちゃんが声を上げた。きっとイヤなニオイが充満してるはずなのに、マスクを下げて鼻を利かせる。
「……覚えてるわ、さっきのニオイ。タマゴがくさったような強烈なニオイ――」
リズちゃんが人差し指をまっすぐ伸ばした。
「そのあたりにいるやつよ」
アキの目のはしが鋭くなった。
「あいつか。よっしゃ、ロックオン。――コッコ!」
「うん!」
最後にマフラーをひとなでさせた。
手元の風船から線香花火が弾けるような音がする。
制服のブラウスが肌にはりついてる。
静電気、たまってる。
「この先だ、行け!」
アキが指さす方へ、まっすぐ剣を突き出す。
バチン――。
風船を通じて強烈なしびれが駆け抜ける。
冷凍庫をあわてて閉めたあとのような、やわらかい冷気が一瞬顔に吹きつけた。
「……ニオイが弱まるわ」
「ノイズがやんだ」
「ぼくも味が消えた。アッちゃん、他の霊もいなくなったの?」
「おー。見事に逃げてくわ」
アキが額に手をかざしてにんまりした。
わたしも寒さが遠のくのを感じる。見えなくても、オバケたちがクモの子を散らしたように逃げていくのが想像できる。
他のオバケはやじ馬みたいなものだったのかも。
よかった。
思うと同時に、ふっと肩から力が抜けた。その拍子に風船の先が地面にふれて、パンとはじける。
みんな飛び上がるほど驚いた。
そして、いっせいに笑った。
「コッコ、おどかすなよー」
「ごめんごめん」
わたしは苦笑いしながら割れた風船をポケットにしまい、マフラーをてきとうに手首に巻いた。
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