1章 入学式は大騒動!

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 今、目が合った?  反射的に固まってしまった瞬間、吹雪に襲われたみたいにまた寒さがぶり返してきて、わたしは二の腕を抱きしめた。  思わず「うっ」と声が出てしまったけど、幸か不幸か同じタイミングで一組の方でも退場者が出たから、わたしは目立たずにすんだ。  背中を丸めながらチラッと見たら、さっき返事が遅れていた男の子が列から出ていくのが分かった。  まだ耳を押さえてる。  本当に具合が悪かったんだ。  そして四組の列からも、先生に引っぱり出される女の子がいる。たぶんさっき吐きそうになった子だ。「大丈夫です!」ってはっきりした声で抵抗してるけど、連れていかれてしまった。  一組からひとり、二組からひとり、四組からひとりの退場者。  あっちもこっちも体調不良って、どうなってるの?   ちっとも入学式らしくない空気の中、新入生も在校生も、新入生の保護者も、不安そうにあちこち見回したり、何かをささやきあったりしている。  かくいうわたしも正直寒くてたまらなくて、すぐにでもあたたかいところに移動したいんだけど、こんな大騒ぎになってしまったらとても言い出せない。どうにかガマンしなきゃ。  そのとき、ステージの上で校長先生が小さく咳払いをした。 「えー、アクシデントがあって驚いたかもしれませんが、自分のため、友だちのためにきちんと意見を言えることは素晴らしいことです。みなさんも、何かあったときには勇気を出して言えるようにしましょうね」  会場がいっきに静まり返った。  校長先生の言葉がひとりひとりにきちんと届いた感じがする。  わたしの心にもまっすぐささった。だってふだんのわたしだったらこの状況で言いだせないもん。目立っちゃうって考えが先にきて、さっきのゴーグルメガネの男子みたいに、はっきりと声をあげられない。  でも仲のいい子がピンチになったら、勇気を出そう。もう中学生だしね。  決意をこめて握ったこぶしが、ブルブル震えた。  気持ちは熱くてもやっぱり寒いよ。  ああ、ここまで冷えるとけっこうやばい。前に何度かあったんだよね。寒さがピークになると、マズいことが起こっちゃうって。どうしよう。久々にアレがきちゃうかも。  ヘンな悲鳴が出ないようにぎゅうっと身体を縮こまらせていると、となりの女の子が突然「はい!」と大きな声を出して、真っ直ぐ挙手して席を立った。  入場整列のとき、わたしに「大丈夫?」って声をかけてくれた、目の大きな女の子だ。
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