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「これでボスの出した条件はクリアしたことになるね」
ギンちゃんの言うことにハッとして、わたしは「手形、見てみなきゃ!」と思いついた。
あわてて振り返ったところで、聖ちゃんは――胸の前で手を組み合わせたお祈りのポーズで固まっている? しかも気のせいか目が輝いてる?
「聖ちゃん……?」
わたしが声をかけると、聖ちゃんはスイッチが入ったみたいにぶるっと顔を上げた。
奥の方でイルミネーションが点灯しているみたいに、彼女のチャームポイントの大きな瞳がキラキラと輝く。 そしてぱくぱくと口を開け閉めしたかと思うと、「きゃあああ」って、黄色い悲鳴が飛び出した⁉
「すっっっごーい、今の何? 映画みたい。もう、もう、やっばい。超かっこいい! ココちゃんナイトなの? 男の子たちは三銃士? 桂木さんはヒーラー? もう、すっごい! ドキドキしてる! きゃー!」
「あ、三戸さん、大丈夫そうだね……」
「むしろ元気すぎじゃね?」
「耳痛かった」
「楽しいお友だちね」
それぞれのリアクションに苦笑いしながら、わたしは聖ちゃんの正面にまわった。
「聖ちゃん、腕見せて。サポーターとってみて」
「え……あ!」
はぎ取るようにめくられたサポーターの下から、白い肌が現われる。手形どころか傷ひとつない。 きれいな肌。
聖ちゃんが目を見開いた。
「消えてるー!」
「ボス、仕事早いな」
実際に手形を見ていたアキが、しみじみと感心している。
わたしは、腰が抜けるほど安心した。
「よかったぁ……」
全部自分の怖がりのせいで起こってしまったことだけど、ちゃんと解決できてよかった。
もちろん、これはひとりじゃとても解決できなかったこと。
わたしは、霊感仲間たちを見回した。
「みんなありがとう。全部みんなのおかげだよ」
「光栄だわ、コッコちゃん」
わたしに応えるようにリズちゃんと颯真くんが拍手した。
リズちゃんはいつも通り優雅なんだけど、颯真くんはシンバルを鳴らすオモチャみたいになってる。相変わらず面白いなあ。
ギンちゃんはギンちゃんらしくニコッとして、
「一番頑張ったのはココちゃんだよ」
「ていうか、もう怖がりとか言わせないからな」
アキの減らず口も変わらない。
わたしは苦笑いした。
「もうオバケとかこれっきりにしてほしいよ」
「幽霊相手に希望がとおれば苦労しないけどな。ま、とりあえず――ほい」
アキがハイタッチのかまえをした。びっくりして反応が遅れると、アキのきりっとした目が「ほら」と促してくる。
うれしい気持ちがぐーっとこみあげてきた。
わたしは感情に突き動かされるように、めいっぱい両手を広げてアキの手にふれた。
その瞬間。
――バチッ。
「いたっ!」
「ってええ!」
ふたりで同時に飛び上がった。
なんでこのタイミングで起こっちゃったんだろう。また静電気だ!
たちまち、アキがゆらっと般若みたいな顔になる。
「コッコ! 今の絶対わざとだろ!」
「ちが、ちがうよ! アキが静電気体質なんだよー!」
お互いに手をピラピラさせながら言い合うと、みんなはじけるように笑い出した。颯真くんまで爆笑してる。
もー。せっかくいい感じに解決したのに、肝心なところでこれなんて、悔しいような、悲しいような。
でも、みんな笑ってくれたからまあいいか。
シブい顔で見上げた空は、すみずみまですっきりと晴れわたっている。
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