めでたし、めでたし?

1/1
前へ
/81ページ
次へ

めでたし、めでたし?

 校長室の窓が開いていた。  梅雨入り目前のしめった風に、ブラインドのヒモがかすかに揺れる。    わたしは部活へ急ぐ足を止め、窓の向こうをひととき見つめた。  あれから二週間。  わたしたちがボスの気配を感じることはなくなった。  壺の中でゆっくり眠ってるのかな。  棚の上の二つの壺にはしっかりとフタが閉められていて、室内はとても静かだ。 「ココちゃーん、何してるのー?」  遠くで聖ちゃんが呼ぶ声がして、わたしは校長室に背を向けた。 「なんでもなーい。今行くー!」  駆けだして、聖ちゃんやダンス部の仲間たちと合流する。  わたしの中学生活はドタバタ続きのスタートだったけど、やっとまともな日常がやってきた。  これからは部活をがんばって、勉強もして、友だちと遊んで――ひょっとしたら誰かに恋をしたりして。  分かんないけど、自分らしく、楽しく行こう!  ――って、思ったのに。 「ところでココちゃん、聞いた?」 「え?」 「裏門の先の墓地のあたりで、誰もいないのに足音がついてくるってウワサ。成仏できない幽霊のしわざだって話だよ」  聖ちゃんのヒソヒソ話に、わたしはたちまち顔面蒼白になる。  だってそこ、いつも帰りに通ってたところだもん! 「……遠回りしなきゃ。どれだけ無駄な時間がかかっても絶対避けて通らなきゃ……」  念仏みたいにブツブツつぶやいていると、突然、ダンス部の練習場所に見慣れた三人組が姿を見せた。  アキにギンちゃんに颯真くん。  ……なんかイヤな予感がする。  とっさに背中を向けたわたしだけど、当然見逃してもらえるはずもなく。 「おー、コッコ。今日部活何時まで? 終わったらちょっとつきあえよー」 「絶対イヤ!」  わたしの中学生活は、まだまだドタバタしそうである。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加