episode⑥-9

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episode⑥-9

色とりどりに咲く美しいバラたち。 それらのひとつひとつに ていねいに水やりをする大きな背中…。 その背中に向かって 僕は足元に落ちていた小石を拾って 強めに投げてみる。 振り向くことなく その小石を後ろ手で受け止めると トーマスは振り返って僕に微笑んだ。 「いたずらはいけませんよ、ユノヤ坊ちゃま」 「トーマスは本当に強いんだね…」 「は?…ああ、チャンミン様から 何か聞いたんですね?」 「うん…」 「もう昔の話ですよ」 トーマスは傍の木々に肥料をまきながら ははは…と笑った。 「わしはここの庭師です。ただそれだけですよ」 「ねえトーマス…」 「なんでしょう?」 「僕もとうさまみたいなヴァンパイアに なれるかな…?」 「なれますとも」 「ホント??」 「たくさんの経験と修行は必要ですがね」 「そうだよね…」 「坊ちゃまはユノ様のお子様ですよ。必ずなれます」 「ありがと…トーマス」 トーマスはにっこり笑うと、 地面に置いてあったスコップを持って立ち上がった。 「それに…坊ちゃまは、あの頃のユノ様に よく似ておられます」 「え…?あの頃って…??」 「おしゃべりが過ぎましたね…」 トーマスは軽くお辞儀をすると 「お~いヘンリー!!手伝ってくれ」 と、他の庭師に声をかけながら 庭の中心部に向かっていった。 あの頃のとうさまって、いつの頃なんだろう?? 僕はとうさまのような最強のヴァンパイアに なれるの…?? 僕は…いったい…どうすれば…?? 「ユノヤ?どうした??」 僕はそばのバラに向かって ブツブツとひとりごとを言っていたようだ。 顔を上げると 不思議そうな顔のユンジャ兄さまがいた。 「兄さま…」 「ん?」 「兄さまはどうして狩りに行かないの?」 「え…?そうだなぁ…」 兄さまは少し困ったような顔で笑うと 「僕には向かない、と感じたからかも」 「そうなの…??」 「とうさまの血はユノヤに深く 引き継がれてるからな」 そう言って、兄さまは僕の頭を優しく撫でた。 「大丈夫。ユノヤならとうさまのような ヴァンパイアになれるさ」 「うん…」 「あせらずに、自分らしく進めばいいんだ。」 兄さまの言葉はいつも僕の心を落ち着かせてくれる。 とうさまの代わりにかあさまや僕を そしてこの城をずっと守ってきた兄さまは 小さなとうさまみたいだ…と 子供の頃から思っていたから…。 本当に強いのは ユンジャ兄さまなのかもしれない。
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