episode⑥-7

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episode⑥-7

凛とした声が辺りに響き渡ると… とうさまに飛びかかろうとしていた男たちが 一斉に身を固くするのがわかった。 奥から現れたのは 1人の背の高い男… 「長(おさ)…」 長と呼ばれた男は とうさまに向かって微笑んだ。 「久しぶりだな…ユノ」 「ここの長はおまえだったのか、ジソク」 「ああ」 ジソクさんはうなずくと、 「2人に手出しは無用」と、男たちを制した。 「しかし、長…こいつらは縄張りを…」 「俺の話を忘れたか?ジャニス」 「え…?」 「おまえたちにも話しただろう?ユノの話を」 「あ…!!!」 「長の命の恩人…」 「最強のヴァンパイア…!!」 とうさまを囲んでいた男たちが一斉にひざまずく。 「ご、ご無礼をお許し下さい、ユノ様…!!」 「おいおい…ジソク。おまえ、 こいつらに何を話したんだ?」 「ありのままさ」 ジソクさんはにっこり笑うと 僕に手を差し延べ、ゆっくりと立たせてくれる。 「すまなかったな…」 「い、いえ…」 「立てるか?ユノヤ」 「はい…」 「ユノヤというのか…。ユノ、 おまえの息子だろう?」 「ああ、2番目の子だ」 「昔のおまえにそっくりだからすぐにわかったぞ」 「こちらこそすまなかった。 こいつに縄張りの話をする前に こんなことになってしまって…」 「いいんだ。これでおまえに 少しは借りを返せたかな?」 「十分過ぎるくらいだよ」 とうさまとジソクさんが笑いながら 握手を交わすのを見て 僕はたまらなく嬉しい気持ちになった。 やっぱりとうさまは最強のヴァンパイアだ…!! ジソクさんから僕の体を受けながら とうさまは静かに言った。 「ばか野郎、勝手に飛び出しやがって」 「ごめんなさい、とうさま…」 「チャンミンにも礼を言っておくんだぞ。 おまえの危機を知らせてくれたのはあいつだからな」 「はい…」 「帰るぞ」 僕はとうさまに支えられて ゆっくりと歩きだした。 「ジソク、また会おう」 「ああ。ユノヤ、とうさまからたくさん学べよ」 「はい…!!」 僕ととうさまが歩き出すと それまで男たちによってふさがれていた場所が 一気に開けられる。 とうさまを見る彼らの羨望の眼差しが 誇らしかった。 建物を出て 来た道をゆっくりと歩く。 その度に男たちから受けた傷のあちこちが痛んで 僕は顔をしかめた。 「…つぅ…」 「痛むか?」 「大丈夫…です」 「その痛み、しっかり覚えておくんだ」 「はい…」 「縄張りをむやみに侵した者に訪れるのは…」 「死…ですね」 「それがわかればいい」 とうさまはにっこりと笑った。 その街のはずれにある結界を抜けると チャンミン兄さまが待っていてくれた。 「ユノヤ…!!大丈夫か??ケガは??」 「ごめんなさい、チャンミン兄さま…」 「あの街は…ジソクの縄張りだったんだ」 「そうだったんですね。助かったな、ユノヤ」 「はい…」 チャンミン兄さまにも支えられて 3人でゆっくりと歩く。 「チャンミン兄さま…」 「ん?何だい?」 「とうさまはジソクさんの命の恩人だって 聞いたけど…」 「ああ、そうだよ」 「とうさまはどんなことをしてあげたの?」 「ヒョン…ユノヤに話しても?」 「ああ…」 チャンミン兄さまがニヤリと笑う。 「あれはちょうど120年前の話だったかな…」 チャンミン兄さまから聞かされたのは とうさまの「最強伝説」だった…。
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