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少し離れただけなのに、こんなに懐かしさが漂っているとは。
あ! あの背格好、きっと彼だ。
「おーい」
石を使って何気なく絵を描いていた少年は、声がした方を一瞥した。
野球帽の鍔の影は、緩く上がった彼の口角を隠し切れていない。
石を投げ出して、少年はすぐに飛んできた。
「おじさん!」
とりあえず俺は、少年に謝らなくてはならない。
「約束破ってごめん……」
散々ダメな部分を見せてきたと言うのに、
それでもなお、彼はいつかのように勇気づけてくれた。
「いいよ! 僕は会えて嬉しい!
だけど、ここに戻ってきたってことは……
最後のミッション、クリアできなかったの?」
少年の心は再会の喜びで、頭は当然の疑問で満たされていた。
「頑張って探してみたんだけどな。一昨日には何の変哲もなくてさ。
13時に起きて、妖精にいたずらされて、
子どもの本読んで、冒険ゲームやっただけの一日だったぞ」
少年は腹を抱えて笑っている。なぜか分からず笑われるのは、正直腹立たしい。
「おじさん、それ本気? バカじゃん!」
「おい、年上をバカ呼ばわりすんな!」
それから追いかけっこが始まった。
すばしっこい少年の逃げ足には、おじさんの俺は最後まで追い付けなかった。
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