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「僕はここのダンジョンマスターなんだ! そして、おじさんが勇者!」
無邪気な笑顔は結構だが、今年で28歳を迎える社会人が
そのような突飛な設定に乗っかれるかはまた別問題。
「坊やは迷子なのかい?」
「迷子なのは、おじさんだよ!」
「え?」
予期せぬカウンターを喰らい、思考が停止している。
「おじさんは一昨日ダンジョンに迷い込んだんだよ! 早く脱出しないと!」
棒立ちする俺の両手に、少年は剣と盾を握らせてきた。
こういった仮装をするのは小学生以来であるため、気持ちは少々高ぶっている。
続けて背中にマントを付けられたところで、
勝手に少年によるダンジョン解説が始まった。
「おじさん、一昨日にどんな出来事があったか覚えている?」
「いや、何も」
昨夜に酒を浴びるほど飲んだせいで、昨日の記憶も曖昧なのに、
一昨日のことを覚えているはずがない。
「だからね、ここでは魔物を倒したり、宝箱を開けたりして、
一昨日の記憶の欠片を集めていくんだ!」
興味は惹かれる。だけども、話の内容が一切現実味を帯びていない。
「面白そうだから一応やるけどさ、何のために記憶の欠片を集めるんだ?」
「それはね……」
そう言うと、少年は古びた地図を一気に広げた。
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