92人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は流石に現状を訴えずにはいられなかった。
「なぁ、記憶の欠片のありがたみがあまりないんだが……」
「困ったなぁ。もしかすると、ボスの波動のせいかも!」
「ボス?」
「うん。夜の間にはボスが潜んでいるんだ。
奴の波動が記憶の欠片に影響を及ぼしているんじゃないかな?」
躊躇している暇があるなら、剣と盾を持って向かうしかないよな。
ところが、まるで空想のような出来事の連続に、一向に手の震えが止まらない。
慣れない動きのせいで、身体が拒否反応を示しているのか。
「嫌ならリタイアもできるよ?」
俺の無様な姿を見兼ねた少年は、そう提案した。
「しねぇよ」
つい攻撃的な口調になってしまった。相手はまだ幼い子どもだって言うのに。
「あ、ごめん……つい……」
少年が、大人げない態度をとってしまった俺を咎めることはなく、
むしろ背中を押してくれた。
「ううん、頑張って! おじさんにはボスも倒せる気がするよ!」
鈍い灰色であった剣先が、
今は弱々しくも暗闇の中で自ら輝いているように感じられた。
やっぱり、まだおじさんと呼ばれるような年齢ではないけどな。
最初のコメントを投稿しよう!