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4
夜の間に近付くだけで、とてつもない冷気が全身を包み込む。
洞窟本来の寒冷性を考慮しても、これは身に応える。
この異常な寒さは、ボスの発する波動によるものなのか。
「波動が出ているときのボスは特に強いから、盾を上手く使ってね!」
「なるほどな。そのためのか」
中心部に僅かな亀裂が入っているのが、悪い方向に転ばないといいが。
突然、足元にあった大岩が破裂した。
割れてできた無数の砂粒が、俺たちの頭上に降り掛かる。
「あっ!」
砂の雨の隙間から、鋭い二本爪が見えた気がした。
身体が回避反応を示したときは遅く、既に俺は仰向けに宙を飛んでいた。
洞窟の天井はいけ好かない眺めだ。
また砂だらけで傷だらけ。理不尽にも程がある。
そもそもなんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ。
「おじさんはすぐに諦めちゃうの? リタイアはしないんじゃなかったっけ?」
子どもに煽られるまでに成り下がってしまったか。
そう言えば、俺の人生は妥協ばかりだった。
挫折したくないから。挫折した惨めな自分を世間に晒したくないから。
そういった理由で、俺は妥協の道を無意識に選ぶようになっていた。
でも、今回は初めての挫折かな。
「おじさんのかっこ良いところを見せてよ!」
瀕死の身体にも、少年の声はすんなりと鼓膜の奥に伝わってくる。
「かっこ悪いおじさんは見たくないよ……」
子どもが泣いて奮い立たないおじさんはいない。
案外、俺の方が単純かもな。もう一度だけ、剣を握るか。
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