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「こ、ここは一体……?」
冷たい滴を額に感じ、俺は目を覚ます。
「うわっ!」
まぶたの僅かな隙間に、二滴目の滴が飛び込んできた。
起きて早々、酷い仕打ちだな。
それにしても、いつの間に俺は洞窟で眠りこけていたんだ?
背面を斑に汚した土の匂いが、漠然とした不安を募らせる。
なんせ今どこにいるのか、全く見当もついていない。
「一昨日ダンジョンへようこそ!」
「うわっ!」
不意に洞窟内に反響した出所不明の声に、俺は柄にもなく取り乱してしまった。
驚いて上げた俺の声に驚く自分が嫌になる。
「おじさん、大丈夫?」
顔面を地中に埋めた俺に、誰かが優しく声を掛けてきた。
早く引き上げてくれ。
口が塞がっている俺はそうも言い出せず、静かに親指を立てた。
「うんしょっと!」
助かった。誰かが腕を引っ張ってくれなければ、窒息していたところだ。
俺は立ち上がって、膝に丸い跡を残していた土を払った。
「ありがとよ。まだおじさんと呼ばれるような年齢ではないけどな」
ある程度落ち着いた頃に、俺はちらっと声の主の方を見た。
そこにいたのは、半袖短パンに野球帽をかぶった、いかにも腕白そうな少年。
「改めて、一昨日ダンジョンへようこそ!」
少年は今どきに珍しい、透き通った純粋な目をしている。
ダンジョンとは何のことやら。
子どものごっこ遊びに付き合っている時間はないのだが。
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