1/3
前へ
/15ページ
次へ

 「こ、ここは一体……?」 冷たい滴を額に感じ、俺は目を覚ます。 「うわっ!」 まぶたの僅かな隙間に、二滴目の滴が飛び込んできた。 起きて早々、酷い仕打ちだな。 それにしても、いつの間に俺は洞窟で眠りこけていたんだ? 背面を斑に汚した土の匂いが、漠然とした不安を募らせる。 なんせ今どこにいるのか、全く見当もついていない。 「一昨日(おととい)ダンジョンへようこそ!」 「うわっ!」 不意に洞窟内に反響した出所不明の声に、俺は柄にもなく取り乱してしまった。 驚いて上げた俺の声に驚く自分が嫌になる。 「おじさん、大丈夫?」 顔面を地中に埋めた俺に、誰かが優しく声を掛けてきた。 早く引き上げてくれ。 口が塞がっている俺はそうも言い出せず、静かに親指を立てた。 「うんしょっと!」 助かった。誰かが腕を引っ張ってくれなければ、窒息していたところだ。 俺は立ち上がって、膝に丸い跡を残していた土を払った。 「ありがとよ。まだおじさんと呼ばれるような年齢ではないけどな」 ある程度落ち着いた頃に、俺はちらっと声の主の方を見た。 そこにいたのは、半袖短パンに野球帽をかぶった、いかにも腕白そうな少年。 「改めて、一昨日ダンジョンへようこそ!」 少年は今どきに珍しい、透き通った純粋な目をしている。 ダンジョンとは何のことやら。 子どものごっこ遊びに付き合っている時間はないのだが。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

92人が本棚に入れています
本棚に追加