翌日

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翌日

 日菜子とは彼女の会社で話し合うことになった。  予定では社外で打ち合わせをしつつ、先日同様しっぽりとたのしもうとおもっていたのだが、横槍が入った。  なんでも同僚とやらが「嘘かもしれない」と文句をつけたらしく、その過程で「だったら男性との契約を会社で行おう」となったらしい。  普通なら男を試すような扱いはありえないそうなのだが、これまで目立った功績も無かった日菜子が大躍進ともいえる報告に、会社側も疑わざるを得なかったらしい。  ついでに言えばその同僚とやらが、直属ではないとはいえそれなりに発言力のある上司にたいそう気にいられていたらしく、その発言が上まで行ったとの事。  一言、文句をつけるとするならば「気に入らない」だ。  日菜子をバカにしたような物言いもそうだが、その結果を見ずに疑ってかかる会社のスタイルそのものが気に入らない。.......とはいえ、彼女が働く環境を乱すつもりは無い。  ならば俺が一肌脱いで、彼女の信頼を勝ち取る手伝いをするだけだ。  俺は3時過ぎに日菜子の迎えを受けて、彼女の勤め先である会社へと向かうことにした。  ただその前にアクセサリーをいくつか購入。  白いTシャツの上にファー付きのモッズコート。ジーンズは昨日のものと同じ。  そこに先程買ったシルバーのネックレスとリング。ちなみに日菜子にもお揃いのリングを付けさせた。  仕事中だろうが、彼女が「俺と付き合っている」という証拠を分かりやすくするためだ。  なんでも女性目線ではあるが、男が身につけていはアクセサリーを一緒につけて歩くのは一種のステータスらしく、公的に「自分はこの人のもの」と見せつける意味合いがあるらしい。  日菜子には「今はそれで我慢して欲しい、いつかちゃんとした指輪を送るから」と言いつつリングを填めた所、顔を真っ赤にして抱きついてきた。  余談だが、普通指輪は女性から送るのが常識だっため、男からのプロポーズはかなりレアだと店員が教えてくれた。  .......かなり羨ましそうに日菜子を見ながら。  そして会社に到着。  自動ドアを潜り、1回の受付にまっすぐ向かうとカウンターの女性が俺に気づき固まる。 「よ、ようこ、そ。ジャストアンサー株式会社へ、ほ、本日は.......どのようなご要件で」  カチコチに固まる女性に笑顔で応える。 「こちらにいる日菜子はこの会社で務めているらしくてね? 契約をしようとおもったら何やら「そっちから来い」と言われたので赴いたんだよ」  ピシリ、と空気が固まった。  ちなみに日菜子には前もって説明してあるし、「交渉は俺に任せて」といってあるため、後ろで静かだ。 「ひ、ひなこ?」 「みか、そういうわけだから通行証発行してくれる?」  受付の子と日菜子が名前を呼んでいる。 「日菜子、もしかして知り合いだった?」 「は、はい。彼女は同じ学校の出身で、仲の良い子です」 「そうだったのか、ごめんね? 日菜子が不当に扱われてると聞いて苛立ってたから、八つ当たりみたいなことをしてしまった」  分かりやすく頭を下げると周りがざわつく。 「男が.......頭を下げたっ!?」 「しかも女のために!?」 「え、なに? イケメンで優しくてフォローもしてくれるとか天使?」  周りの声にハッとした受付のミカという女性は慌てて立ちあがる。 「滅相もないです! 直ぐに通行証を発行しますので少々おまちを!」 「ありがとうミカさん、日菜子とはこれからもよろしくね」 「はひぃ!!」  ニコニコと笑みを振りまいて「日菜子を大切にしているアピール」を繰り返す。  これをみれば相当な馬鹿じゃない限り「日菜子と仲良くした方が得」と気づくはずだ。  既に遠目から見ていた女性たちの何人かが「あの子、日菜子と呼ばれてたわね.......」と彼女に興味を持ち始めていた。 「仗助さん、なにもそこまで.......」 「いいんだよ。俺が日菜子を大切に思ってるのは事実なんだ。俺が笑顔を振りまいたり少しサービスするだけで、日菜子の今後が良くなるなら安いもんだよ」 「仗助、さん」  感極まったようすで見上げてくる彼女の頭を撫でながら待っていると、先程日菜子の友人と紹介されたミカさんがやって来た。 「お、おまたせしました!」 「ありがとう」  笑顔で受け取り日菜子に、話し合いの場所へと向かうことにした。    会議室への案内は、件の上司とやらが差し向けた部下だった。  俺を見るなりあからさまに動揺する姿を見せられ、不思議に思ったが会議室を見て納得した。    動揺した社員に案内されて到着した部屋は、これまた貧相な会議した。  安っぽいパイプ椅子と長机がふたつ並べてあるだけで、こじんまりした空間だった。  別に話し合いをするだけなら問題ないのだが、この世界の男に対する扱いを鑑みればコレはかなり失礼な対応だ。  恐らく、先程の社員は何も聞かされておらず「ここへ通せ」と言われたのだろう。そしていざ迎えに来て見れば男が居て「あの部屋で本当に良いのか」と困惑したのだろう。  日菜子もさすがに驚いたようで「文句を言ってきます」と息巻いたが、それを止めた。 「な、なんでっ.......仗助さんをこんな扱いして.......っ」 「任せてって言ったろ?」  そう言うと同時に会議室の扉が開かれた。
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