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バナナ2
楽しそうに喋りながらバナナや野菜を袋に詰め、代金を貰い手渡す時に女の手を握り、女達を喜ばす。
「ホストかよ。お前……」
京極はそう呟くとバナナの袋を片手に病院へ歩いて行こうとする。
「おい、和。えらく繁盛してるじゃねぇか」
「あ……たかちゃん」
"たかちゃん"と言う和の言葉に京極は足を止め、振り返った。
「たかちゃんもバナナ……要る?前におでんご馳走になったからさ」
「要る要る」
「ちょっと待ってて?」
和はバナナを同じように袋へ入れると隆夫に手渡した。そしてニッと笑う。
「……」
京極は手に持つビニール袋をギュッと握った。
「和くぅーん、私もバナナ欲しーい」
「あーはいはい。今入れるね?」
和が「どれがいい?」と主婦に聞いている横で隆夫が京極の強い視線に目を向けた。2人は睨み合う。
「俺、そろそろ行くわ」
「あ、たかちゃん仕事頑張って」
「お前もな?」
そう言うと隆夫はビニール袋を引っ提げて京極の横を通り過ぎる。その間も2人は目を合わせたまま。
そんな中「毎度ありー。また来てねー」と和は相変わらず女性客に投げキッスをし、手を振っている。
京極はハァと溜息をつき、病院へ足を向けた。
「よし、バナナ完売っと。残る野菜はぁ……。お、結構俺、頑張った方じゃね?」
気をよくした女達はバナナ以外にも和の"快気祝い"と言ってこぞって他の野菜や果物を沢山購入してくれた。
「いい感じー」と店の中へ入ると和室に居る愛を抱きしめる。
「パパは今日も頑張ったぞー」と言いながら抱っこ紐を装着し、愛と軽い足取りで散歩がてらホームセンターへ向かった。
「愛、どのメーカーの粉ミルクがいい?本当は母乳が1番なんだろうけどなぁー、流石に母乳は出ないしなぁー」
そんな事を言うのを商品補充をしているパートの女性店員に聞かれてクスッと笑われる。
和は思わず赤くなり、オムツコーナーへ足を進めた。
「相変わらずオムツもそこそこすんなぁ。愛の為にももっと、稼がなきゃな……」
そんな愛は和の抱っこ紐の中でおしゃぶりをモゴモゴしながらウトウトとしている。そんな愛を見てフッと笑い背中をトントンとする。
【どういう環境下に居るか分からないけど、もし1人で産んで1人で子育てしながら働いて出費も結構バカにならないし……。一体どうしていたんだろう……】
ふと和は愛の母親の事を考えた。
自分のようにサポートしてくれる親は居たのかな?
居なかったらきっと1人では大変だったはず……。
愛の寝顔を改めて見る。
「こんなに可愛いのに。愛に会いたくならねぇのかな……」
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