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八百屋の将来1
「和くぅーん、来たよぉ」
「あ、いらっしゃーい。今日は何にしましょうか?」
「そうねぇ……」
若奥様は小さな店の中の野菜をじっくりと吟味している。
「この茄子とかどうっすか?太くて長くて……。丁度いい感じっしょ?」
和がそう言ってヘタ側を根元に持つとまるで自分のペニスを持つように茄子をいやらしくニギニギすると若奥様は頬を赤くした。
「じゃあそれ……頂こうかなぁ?」
「OK。1本で足りる?2、3本いっとく?」
「いっとくいっとくうー」
和はにっこり笑うと「じゃあ特別にトマト1個オマケな?」と言って「内緒だよ?」とシーッと尖らせた唇に人差し指を立ててビニール袋へ品物を入れた。口元のホクロがやけに色っぽいこの男。
男のくせに茶髪の長めの髪を片側のみ留めて背もそこそこあるが細身で中性的。
男にも女にもウケの良さそうな男で若奥様はポーっとする。
「和くぅん、ありがと。また来るねぇ」
「毎度ありー」
和は若奥様にウインクをして投げキッスをし、バイバーイと手を振ると後ろから頭を引っ叩かれた。
「痛てっ。何だよ親父。痛ってぇなぁ」
「勝手にオマケをつけるな」
「……どうせ売れ残るんじゃねぇかよ」
頭を擦りながらそう愚痴を零すと親父は黙って店内に入る。
「俺のおかげでこの店もってるようなもんじゃねぇか」
和はブスッと唇を尖らせ青いエプロンのポケットに両手を突っ込んで丸椅子にドカッと座った。
八百屋[香坂(こうさか)]は先祖代々続いている八百屋で寂れた商店街の一角にあった。和が学生の頃くらいまでは賑わっていたこの商店街も2、3年前に近くに大きなショッピングモールが出来た事でどんどん潰れ 、今ではシャッターを閉じている店舗の方が多いくらいだ。
「あのねーちゃんもショッピングモール1階のスーパーの帰りにわざわざ俺に会いにここに寄ってくれてんだぜ?親父よぉ」
確かに若奥様はスーパーで購入したであろう沢山品物の入ったマイバッグを自転車の籠に乗っけていた。
和は溜息をつく。
【マジで親父の代で潰れんじゃね?】
父親はこの仕事に命を掛けている。ただやり方は昔ならではのまんまでこのままでは確実に潰れると和は思っていた。
「学(がく)にぃならどうするだろう……。どうしてた?どうしたら客、増えるんだ?」
和は和なりに足りない頭で店の事を考えていた。
「おお、和」
その声に顔を上げると今時、岡持ちを下げたバイクに跨る男。
「たかちゃん。配達か?」
「ああ」
このガタイのいい、和が"たかちゃん"と呼ぶ男は昔よくヤンチャしていた頃の中・高の2つ年上の先輩で戌井隆夫(いぬいたかお)。同じ商店街で和のように寿司屋を営む実家を継いでいた。
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