配達1

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配達1

ある日の午後、相変わらずの愛の3時間サイクルのミルクとオムツで寝不足気味な和は大きな欠伸をした。 お昼を食べて更に睡魔が襲ってくる。 「眠……」 丁度このくらいの時間帯は暇になる時間帯で昼間から酒を飲んでいる一線を退いたオヤジが通るくらいで商店街は閑散としていた。 愛を母親に預け、和も暇そうに店先でウトウト眠りこけていたらピリピリピリと携帯が鳴り、画面を見ると見知らぬ電話番号。 女性客とはその場で登録し合うので名前が分かるはず。なのに未登録だ。誰だろうと和は電話に出た。 「もしもし」 『俺、京極』 「京極って……。あの京極?」 『……その京極だ』 「何で?何で京極が俺の電話番号……」 【知ってんだ?】 『配達……頼みたいんだけど』 「え、配達?……いいけど。何を?」 『そうだなぁ……』 「ちょっと待って。メモるから」 和はメモをしながらフムフムと書き込む。 「あ、悪ぃ。チェリー切らしてるわ。イチゴかバナナなら……。イチゴね、了解」 『あと和……』 「……え?」 『病院じゃなくて今から言う所に持ってきてくれ』 「分かった。住所教えて。……フムフム。今もう持って行っていいのか?」 『いい。今日は俺"休み"だから』 和は言われた野菜と果物を袋に詰めると伝票を書いていつものように釣り銭用のウエストポーチを装着して「配達行ってきまーす」とバイクを走らせた。 その間も何故自分の携帯番号を京極が知っていたのかを考える。 「ま、いっか」 言われた住所に着くと和はその建物を見上げた。デカいいかにも家賃が高そうなマンション。 入口で言われた部屋番号を押すと『はい』と京極が出た。 【京極って実家暮らしじゃねぇのか】 「ああ……俺、和。配達分持って来た」 『悪いがそのまま508まで持って来てくれ』 そう言うとエントランスの鍵が解錠された。中に入るとエプロン姿の和にコンシェルジュが眉を潜めている。 摘み出されやしないかと会釈だけして慌ててエレベーターの上るボタンを押すと乗り込み5階を押した。 開いたエレベーターから降りると508号室の前で立ち止まる。 「結局、京極は金持ちのボンボンか。少しでも俺と環境が似てるだなんて思った俺が馬鹿だったのかもしれない」 所詮、医者の家系の家柄だ。同じ馬鹿高校だったからと言って勝手に京極を"凡人扱い"にしてたけど、特殊な人種の奴等だった事を目の当たりにする。 片や高級マンション、片や6畳一間。 溜息をついて和は玄関のチャイムを鳴らした。
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