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八百屋の将来2
和に"煙草"やちょっとした悪さをするのを教えたのもこの男。
"バイク"の楽しさ、"女"の良さを教えたのもこの男だった。
和を族に誘ったのもこの男。
1度女と結婚していたが、今は離婚をしてバツイチ子持ちの悠々自適の独り身生活だ。
「店開けてても閑古鳥だからな?今はもう宅配の時代だぜ」
「そっか。そうだよなぁ」
「お前んとこはどうだ?」
「相変わらずだよ。見てよ、これ……」
夕食の時間帯が近付いているにも関わらず売れ残る野菜達。
「後でいいからこれ……店ん中入れといてくれよ。あるやつだけでいいからさ?」
隆夫は和にメモ用紙を渡す。それは店に必要な野菜のメモ。
「たかちゃん!」
和は隆夫にガシッと抱きついた。
「ありがとう。これだから、たかちゃん好きぃー」
ニッと笑う和に隆夫は赤くなる。
「あ、たかちゃん。配達」
「お……そうだ。夜さ、久しぶりにツーリング行こうぜ?」
「いいな。行く行くっ」
「じゃ、また後でな?」
「うん。行ってらっしゃーい」
岡持ちを下げてバイクで颯爽と走って行く隆夫に手を振ると、和は丸椅子に座り考える。
「宅配かぁ。うちもこうしてただただ店先に座ってるだけじゃなぁ。なかなか外出出来ないお年寄り向けに野菜の定期宅配サービスなんてどうだろう……。もしくは"サ○エさん"の三河屋さんみたいに御用聞きして宅配とかさぁ」
そんな事をブツブツと考えていたらピリピリピリ……と携帯が鳴った。
着信画面を見て和はフッと笑う。
「はいはーい、"貴女の和くん"でーす」
『あ、和くん?今から"配達"お願い出来るかなぁ?』
「全然いいっすよ?ちょっと待って?メモるから。……いいよ?うん、椎茸とキュウリ徳用と林檎3個にほうれん草。バナナっすね?了解」と和は母親お手製の裏側が白い新聞広告を四つ切りにして重ねて作ったメモ用紙に在庫があるか確認しながら注文の品を書き込む。
『あと"和くん"』
「……それも了解。んじゃまた後で」
和は仲良くなった数人の客の女性と携帯番号を交換し、たまにこうして配達を頼まれていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
『あと"和くん"』
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つまり、そういう事だ。
隆夫に頼まれた野菜と電話で受けた客の野菜を袋に詰めると、母親に「配達行ってきまーす」と告げ、つり銭用のウエストポーチを腰に装着すると配達用のバイクに跨りヘルメット被ってその場を後にした。
とりあえず隆夫の店の裏口から入り、おじさんに隆夫に頼まれた野菜を納品する。
そしてバイクで大通りに出て赤信号にバイクを停めていると、道の向こうから女の子が「あ、和くぅーん」と手を振ってき、和も「また店に寄ってねー」と手を振り返す。
そんな様子を1人の男が車から見ている事も知らずに青信号になり、和はバイクを走らせた。
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