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「ちょっと怖いかも」
香奈枝の話をひとしきり聞いたあたしは、苦笑いと共にそう返事をした。
「そもそも、あたしホラーは好きだけど、高いところから落ちるのは苦手だもん。香奈枝と一緒に遊園地行っても、ジェットコースターとか全然乗らないでしょ?」
「そういやそうだった。あ、でも落ちると行っても超ゆっくりだったよ?ふわーってかんじー?だから愛美も全然怖くないと思うけど」
「それでも嫌なもんは嫌。真っ暗闇っていうし。面白そうではあるけどさ」
「そっかぁ」
香奈枝とあたしの席は、丁度前後に位置している。小学校の頃からの大親友で、高校も約束して同じ学校に行くほどの仲だった。有りがたいことに、あたし達は苗字が同じなので(仲良くなったきっかけもそれである)同じクラスになればほぼ席が前後になる。今の担任の先生はズボラそうだし、当面は名前の順の席のまま変更することもないだろう。
私の前に座っている彼女は、椅子に反対向きで座ってぎこぎこと椅子を揺らしている。そのたびに、派手に跳ねまくっているポニーテールが揺れた。可愛らしいが、うちひっくり返りそうだ。転んだら助け起こしてあげる理由ができるので、それはそれで楽しいけれど。
――ほんと、怪談系興味ないんだな、香奈枝。そのハナシ、ホラー好きの間ではそこそこ有名なんだけど。
あたしは心の中で、ぼそりと呟く。
――“深層トンネル”。ツニッターで、夜中に近しい“誰か”のことを呟くと、謎の人物からリプがついて謎のURLに誘導される。怪しいアドレスなのに、それを見た本人はクリックしたくてたまらなくなる。クリックすると吹き抜けのビルの一室に誘導され、床にあいた穴から奈落の底へと誘導されていく……。
空いた穴の中は真っ暗で、その真っ暗闇の中で落ちた人間は自分の姿を繰り返し見ることになる、のだが。
少し考えればわかることである。
そうやって見る“自分の姿”が、己の記憶ではありえないことに。
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