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だってそうだろう。己の背中は、自分には見えない。己の客観的な姿を見る方法は鏡を見るか――第三者の目を通して見るかのどちらかしかあり得ないではないか。
そう、香奈枝が己の記憶だと思ったものは。
本当は己ではなく――“誰かから見た香奈枝の記憶”なのである。
その誰かとは、きっかけとなった香奈枝の呟きに登場した人物。つまり、今回の場合は。
――そろそろ、トイレのゴミ箱と……香奈枝の水泳部のロッカーに仕込んだ盗撮カメラ、回収しておかないとなあ。この様子だと、近々バレかねないし。
心の中で、あたしは舌なめずりをする。
同性でも異性でも、昔から自分が興味がある対象はただ一人、香奈枝だけ。四階の奥の女子トイレ、人が来ないからという理由で、ピンチの時でもそこに駆け込むのは香奈枝くらいなもの。そもそも四階奥の女子トイレ、一番奥の個室はちょっとした怪談の舞台になってるので、少しでもホラーに明るい人間はまず利用しないのだ。あそこにカメラを仕掛けたのは大正解だった。順当に、彼女の用を足すシーンばかりを回収することができるのだから。
彼女は知らない。
あたしが自宅の引き出しの中いっぱいに、彼女が捨てた割り箸や拾った髪の毛、盗んだ下着(暢気な彼女は本気でなくしたとばかり思っていた。まあ、女子しか来ないような環境ならそう思うのも無理はないだろうが)などが山のように詰め込まれていることを。
隠し撮りした写真ばかりを集めたアルバムやデータが入ったUSBがたくさんあることを。それも、小学生の頃から撮りためてきた大量のものが、だ。
――香奈枝。だーいすきな香奈枝。これからも、あたしにその全部を見せてね?
問題ない。今までもこれからも、彼女はあたしのものだ。
深層トンネルで呼び声に答えた人間は――一生その相手と、深い絆で結ばれることになるのだから。
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